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「ソラノは滑稽ですね」

トリノは空を仰ぎながら言った。
私も彼の真似をして空を仰いでみた。

「おかしいですか」

トリノは不思議なことを云う。
私の頭では考え付かないようなことを云う。
私はトリノから溢れ出す、そんな言葉たちが好きだ。
言葉たちを溢れさす、トリノも好きだ。

私はトリノが知りたいと思う。
だからこうしてトリノの真似事をするのだ。
トリノが空を仰げば私も空を仰ぎ、トリノが歩けば私も歩く。
トリノが塩を嫌うなら私も塩を嫌い、トリノが敬語を使うから私も敬語を使うのだ。
もっとも敬語に関しては、トリノ限定なのだけれども。

「おかしくありませんよ。滑稽なのは良いことです。滑稽は人を愉快にします。愉快は人に幸福を与えます。幸福を与えることは良いことです」
「良いことです」
「ええ、そうです。良いことです」

「良いこと。」私はトリノの言葉をオウム返しに呟いた。

「ならばトリノ、トリノも滑稽です」

ふわりと、青葉と露の混じった六月の香りがした。
トリノが起き上がり、こちらを向いた。

トリノの瞳は私よりも深い漆黒に包まれていて、トリノの暗い過去を彷彿とさせるような気がしたけれど、トリノはそんなこと微塵も感じさせないくらい柔らかく笑った。とてもうれしそうだった。

「そうですか」
「ええ。トリノは私を幸せにします。だからトリノは滑稽です」

トリノは一瞬きょとんとしたあと、豪快に笑いだした。
トリノの笑い方は豪快なのに下品でないのでとても好きだ。
八重歯が覗く。
笑う理由は分からなかったけれど、トリノが笑うので私も笑った。
豪快に、とはいかなかったのだけれど。



100916
110129 編集
ソラノは女の子ですがトリノは女性です。

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