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いつかおとなになるんだろうと思っていた。両足で地面にたって、あるいて、両手で火をつけて、はたらいてお金を稼いで、ついでにセックスもしちゃって。いつかおとなになれるんだろうと思っていた。それはまるで背が伸びるみたいに。それはまるで呼吸をするかのように。

「でもそうじゃなかった」

そのことに気が付いたのは大学に通い始めて一年が経ったあたりだった。そんな当たり前の真実に気付いてしまったその時期が遅かったのか早かったのか、そんなこたあ、わからないけれども、とにかく、そう、その真実は当たり前だったんだ。なにもせずにおとなになれるわけなかった。予備校に通って成績を上げるように、走り込みをしてタイムを縮めるように、なにかをしなければおとなになんてなれっこない。そのことに、気が付いた。

「…で、先生は結局、どうやって大人になったの?」

くりくりとしたお目目をぶちまけるように見やるこの女生徒は高校生にありがちな思考放棄というものを平然とやってのけた。
こうしてかわいらしげに顔を傾ければ俺が落ちるとでも思っているのだろうか。今どきの高校生は馬鹿でいけない。けれどそういうところが好きでもあった。

「いろんなことをあきらめたんだよ」

便所で精一杯梳いてきたのだろう、サラサラの髪型を崩すようにわしゃわしゃと撫でる。女生徒は、「んもう、セクハラ!」と嬉しそうに怒る。怒りながら、ぷりぷりとして頭をこちらへ傾けようとしているそれを小突き、チャイムが鳴るぞ、と教えてやると、彼女は仕方ないとでもいいたげにため息をついて、また人生相談のってね、と教室へと戻っていった。
相談の意味も知らないくせに、本当に馬鹿な子たちだと思う。
でもまだ今は、馬鹿でいい。それでいい。
何かをあきらめるにはまだ早いし、大人になる必要なんてないのだから。


20120226
  0322 更新

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