ss | ナノ


おろかな姉のことが嫌いだった。頭が弱いことを建前に平気で物事を投げ出してしまうような性格も、周囲に溶け込みたいがために色を抜いた髪も、家族との繋がりを揉み消すように化粧を塗りたくった顔も。
すべてが嫌いだった。
それでも母に愛されてしまう姉を、嫌悪していた。

「光一」

澄んだように落ち着いた声に振り向くと、そこには姉がいた。
ひどく明るい髪は暗く見え、白く光る肌は青く感じた。

「光一、わたし、あんたのこと嫌いだった」

姉の瞳はぬるく光り、艶やかなくちびるから細い糸が垂れる。
寄せられた眉間には薄くしわが残った。
姉は闇に紛れて言った。

わたしは、頭のいいあんたに嫉妬していた。母に軽蔑されるわたしをバカにしていると思っていた。あんたなんかいなくなってしまえって、いつもいつも思っていた。

「ごめんね」

ひどく揺れた光を宿した瞳を隠すようにゆっくりと瞬きをした姉は、そう囁くように言ったあと、しばらくじっとこちらを見つめていた。
こちらの言葉を待っているようだった。

「姉さん」

若いはずの姉がひどく衰えたようすで陳謝している。
その事実が、これまで自らの姉を形成していた嫌悪という二文字を崩壊させた。
そこから顔を出したのは、あまりにも許しがたい真実だった。

「姉さんは母さんに愛されてるよ、きっと、一番に」

おろかな姉のことが、嫌いだった。
頭が弱いことを建前に平気で物事を投げ出してしまうような性格も、周囲に溶け込みたいがために色を抜いた髪も、家族との繋がりを揉み消すように化粧を塗りたくった顔も。
すべてが嫌いだった、はずだった。

けれどただ、俺は、純朴で素直だった姉が変わっていくことが許せなかっただけなのだ、俺は、つまり、姉を愛していた。
きっと、海よりも深く。



20120301
0309

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -