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突然彼女は、わたしは神さまなんていないと思うと断言して、じゅるじゅると音をたてながらオレンジジュースを飲み、けれども信仰はしている、と訳のわからないことをわたしに告げて、どうだと言わんばかりにこちらを見た。
いや知らねーよ、そんな顔されても。

「まきちゃんはどう思う」

ずいっと顔をちかづけられて、わたしは言葉につまった。それだというのに彼女はじっと辛抱強くこちらが答えを出すのを待っている。
どう思うって。意味わからん。どう思うって何。神さまはいないってことをどう思うかってこと。それとも神さまを信仰しているあんたをどう思うかってこと。
よくわからないので、聞いたとしてもやっぱりよくわからないと思うので、いいと思うよと適当に返すと、彼女は満足そうに笑ながら、そうかそうかと頷いた。

「まきちゃん、」
「うん」
「何でだと思う?」
「うん?」

なにがと訊くと、わたしが神さまはいないと思っているけど信仰はしている理由のこと、と答える。

「さっぱりわからないけど」

空っぽのコーヒーカップを傾けながら、言った。わからないというか考えるつもりもないし。彼女のガラスコップにはいまだオレンジジュースが残っている。そしてそれをじゅるじゅると吸う。

「それはねえ」

にやにやと始終緩みっぱなしの頬をさらにゆるゆるに緩ませながら、頬に両の手を添え、顔を傾けた。
その仕草や表情だけなら愛嬌があってとてもかわいらしくて異性にモテそうなのになあと思う。友達としてそう思う、わたしは。

「わたしとまきちゃんが同性として生まれてきたこと。これは世界の不幸だと思うの。つまりわたしたちは結婚できない、だから、神さまなんかいない」
「はあ?」
「それでもまきちゃんと恋人になりたいから、神さまを信仰することにしてるの」

じゅる、と一気にオレンジジュースを吸いきって、彼女は微笑んだ。信じるものは救われる、らしい。はあ。さすが電波の発言は違う。はあ。
伏せた睫毛はずいぶんと長くふさふさしていた。それは羨ましいけれど、彼女の“まきちゃん好き”はどうにかならないのか。

「へえ」

適当に相槌を打ち、わたしはコーヒーのお替りをオーダーする。わたしは彼女が好きだけど、それは彼女の好きと同じ好きじゃない。そんなことを言われても相手にできないし、するつもりもない。ていうかできるわけがない、そんなことを言われても!

「ねえ、まきちゃん」
「なに?」
「もしも神さまがいたら、わたしたちきっともっと幸せになれていたよね」

間髪入れずにそうだろうかと呟くと、彼女も負けじと間髪入れずにそうに決まってるよ、と微笑むその表情は確かに異性からモテそうなくらいにはかわいいけれど。けれども、はあ。

「まあ、全部仮定の話だけどね」

そういって彼女はまた微笑んだ。だからわたしも笑顔を向けた。なんにせよ、神さまがいなくてよかったと、心から思った。


20120107

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