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私は薄い鼓膜のような人間です。才能もなければ努力もしない、無能な一人の娘です。
唯一、人よりも秀でたところが有るのだとすれば、それはあなたへの想いでしょうか。
薄い鼓膜が小さく震えて音を成すように、私はただひたすらにあなたを愛すことができます。


私は小指の甘皮のような人間です。強くもなければ耐えようともしない、流れに身を委ね決断を捨てた人の子です。
あなたへの想いを美しい旋律に乗せることも、震えるような文章に変えることも叶いません。
それでも私はあなたに焦がれます。この想いを断ち切ることなどできません。


私は何も持ちません。ひとりで生きてゆく術を持ちません。
けれども私にはあなたへの想いがあります。唯一誇れる、この想いがあります。
ただそれだけで、私は呼吸ができるのです。私は歩くことができるのです。


けれども私が、あなたにこの想いを差し出すことはないでしょう。私は何も持ちません。小指の甘皮のように、薄い鼓膜のように、か弱くそこに存在し、多くの人の意識の外に生まれてしまった馬鹿で愚かな人間です。
愚考な私が持つのはあなたへの淡くて深い想いだけ。
ただしこの想いは、あなたのための想いではないのです。私が生きる、そのための想いなのです。


あなたはいつか、私を忘れてしまうでしょう。
私があなたと幸せになることはあり得ません。ましてや私があなたに幸せを与えることなどあり得ないのです。けれども私があなたを忘れることはないでしょう。私は何時までもあなたのことを想っています。その想いだけで生きているのです。
私を忘れないでほしい、とは言いません。
せめて、赦してください。
何時までもあなたを想い、醜く生きようとする私を、せめて赦していただきたいのです。


私は何も持ちません。けれども私は、人間です。愛を求める、あなたと同じ、ただの一人の人間なのです。


20110819
  1213 更新

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