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 あなたには子宮がない。乳房もない。子を宿すための器官がない。
 同じように私もない。子宮がない。乳房もない。子を宿すための器官が、ない。
  
 胸に触れる。それは滑らかでありながら硬く、女性のそれとは180度違う。
 あなたの胸も、私の胸も、違う。
 
「つまりはそういうことだよね」
  
 相原さんが、笑った。
 彼の指が鎖骨を這い、そのまま下へと移動する。
  
「どういうことですか?」
 
 すこしばかり伸びすぎた爪が臍のあたりに食い込んだところで、それの進行を止めた。
 相原さんはこちらを見ない。
 長い前髪が彼の表情を隠した。
 
「俺は渡くんのそういうところが好きだよ」
「相原さん」
「ごめんね」
 
 触れた肩は、前に触れたときよりもずっと細かった。
 女の子のようだと思った。
 女の子に触れたことがない自分だからこそいえる一言だった。
 
「今更気付いたんだ」
  
 相原さんの前髪を掻き分けた。
 泣いていると思っていた彼は眉をひどく寄せて、唇を噛みしめていただけだった。
 それだけだった。
 
「この先に未来なんかない」
 
 相原さんは俺を見た。
 
「君を引き込んだこと、実は少し後悔している」
 
 そういうと、相原さんは立ち上がって上着を羽織った。
 その長い前髪がまた相原さんを隠したのを見て、切ってはどうですか、と提案したときにこれが結構役に立つのだと笑った相原さんの言葉の意味が、ようやく理解できたような気がした。
 
「でも、」
  
と、俺は口にする。
 
「俺は引き込まれたこと、後悔してないですけど」
 
 ひどく真面目に言ったのに相原さんは、笑って「だから、渡くんのことが好きなんだよ」といいながら、部屋を出て行った。
 
 最後に見たその彼の笑顔は、もう、一生忘れられない。
 
 
 
20110803


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