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馬鹿ねって、母が言うのでわたしはそのたびに悲しくなる。
それは愛のある言葉なのだと弟は言うが、わたしはそうは思えない。
「馬鹿ね、薫は。光一を見なさい。あなたが先に生まれたというのに、光一の方がお利口さんね。ああ…馬鹿ね、薫は。こちらへいらっしゃい。お母さんがお勉強を教えてあげる」
母はいつもそう言ってわたしを呼び寄せる。
けれどわたしは毎度のごとく、母には馬鹿ねと言われ続けるのだった。
姉は母に愛されている。
その愛は真っ直ぐでありながらひどく歪で、頭の弱い姉にとっては理解の範疇を越えている。
けれど俺にはわかる。
姉は愛されているのだ。
それはきっと海よりも深い。
「光一、光一はとても優秀ね、立派だわ。貴方は一人で全てこなせるわね。一人で大丈夫ね。光一、お母さんはお姉さんの世話をしなくてはならないから。ね、光一」
姉は、母に愛されている俺が羨ましいと言う。
果たしてそうだろうか。
母と多くの時を過ごす姉こそが、母の愛を独り占めしているとしか、俺には思えない。
愛とは
所詮そんなもので、
20110602
かぞくはみんなあいです