冷たい風が頬を撫でる。
この橋から見れば、左右が別々な世界のように見えた。2つの世界を分断する、大きな河。


「なまえ、何を見ているんだ?」


橋の上から別けられた世界を見ているとかけられる声。時間も時間だからか、人はおろか車すら見当たらない。そんな時間帯にわたしは此処に、居た。
声を掛けてきた人物を横目で見てから、また視線を戻す。質問に答えなかったからといって機嫌を損ねるような人ではない。

結構大きい河が橋の下を通っているし、橋の上は風通しも良い。存外長く居たようで、染み渡った寒さを肌で感じ身震いをしながら両腕を擦った。

「風邪を引くぞ」

うん、と小さく返事をする。
それでもわたしが動く気がないことを悟ったのか、失礼する、だなんて言って後ろからわたしを包み込んだ。触れている箇所から伝わる温もりにほんの少しだけ救われたような気がする。

「なにを見ているんだ」

再度同じ質問を繰り返したディルムッドに視線はくれてやらず、ただ答えた。

「夜景、綺麗だね」
「……ああ。綺麗だ」
「今日は三日月だよ。星は少しだけしか見えないけど…」
「なまえ、それならホテルから見ても問題ないのではないか」

体に障る、そう良いながらわたしの頬を撫でる。すっかり冷えてしまった頬にもディルムッドの平均的な体温は気持ちが良いものだった。

「なんでだろうね。けど、ここが良いの」

その大きな手に自らの手を重ね、唇に寄せる。驚いたようにピクリと手が震えたが、直ぐに力を抜いてくれた。後ろに体重を掛けるように立てば更に密着する体。背中と首が温かい。ただ、それだけだ。

「…なまえ?」
「ふふふ、ねえディルムッド」
「なんだろうか」
「見て、わたし達」

恋人みたい。

そう言って笑えばディルムッドは更にわたしを抱き寄せて、なら、と耳元で呟いた。


「いっそ、本当になってしまうか」


ぐるりと廻る視界。
世界を2つに隔てていた大きな線は消え、たった1つになる。
視界いっぱいに映るディルムッドはどんな光より、夜景よりも、星や月なんかよりもずっとずっと、綺麗だった。


「……悪くないかもね」


悪戯に笑えば冷えた唇に唇が触れ合った。先程は温かかった背中は冷え、冷えていた前は温かくなる。


「さあ、帰ろうなまえ」


わたしの手を絡めとり彼は笑う。それに応えるように、見えていた2つの世界にお別れを言って、わたしはたった今創られたわたしの世界へと飛び付いた。





世界より美しい私の世界




匿名様リクエスト
ありがとうございました!
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