ランサーの膝に頭を置き睡眠を貪る少女。見てるこちらがヒヤヒヤするような光景だった。だって、一歩間違えれば冷たい水へと落ちてしまうのだから。

「ら、ランサー…、なまえ落とすなよ…?」
「ああ?落ちねぇ落ちねぇ。落ちたとしてもこんなトコで寝るなまえが悪ぃだろ」

それは最もなのだが、なんというか、起こさないランサーにも責任はあるのではないのだろうか。
ランサーの隣にはバケツに煙草、それと今は灰皿と化したコーヒーの缶と炭酸の缶が一つずつ置いてある。「それにコイツ寝てねえから」と言ってランサーは釣竿を片手で持ちもう片方の手で炭酸の缶を持ちあげた。そして口に含むがすぐに顔をしかめる。

「おいなまえ、炭酸抜けてんじゃねえか」
「んー…、全部飲んで…」
「だから炭酸は止めとけっつたんだ」

中に入っていた炭酸だったものを飲み干しランサーはまじぃ、とまた顔をしかめて釣竿を両手で持ち始めた。

「なまえ、寒くないのか?」
「……へーき」

士郎の問い掛けに軽く返事をして仰向けだった体を横にして足を曲げる。だらけているのか眠たいのか、判断のしようがない。そもそもこんなトコで寝転がるな、猫か、と士郎は思う。

「じゃあ俺はそろそろ帰るけど、二人とも夕飯までにはちゃんと帰って来いよ」
「あいよー」

ランサーのみが士郎の言葉に反応し足音が遠ざかる。港にはまた波の音だけが響き渡る時間が続いた。

「おっ、」

糸がぴんと張る。ランサーは嬉しそうに笑って慎重に竿を持ち上げる。慎重に、慎重に。そしてここだ!という時に一気に引き上げた。

「うしっ、ゲット」
「何釣れた」
「鯖」
「またかよ」

なまえはじと目でランサーを見上げた。「どんだけ鯖に好かれてんだよサーヴァントだからなの?鯖なの?」とその視線が訴えかけてくる。

「釣れりゃあ良いだろ、釣れりゃあ」
「どーせ釣るなら大きいもん釣って」
「その内な」

そうして釣り上げた鯖をバケツの中に入れ、ランサーは針に餌を付けてまた海の中へと投げ入れた。

「………ねー」
「あん?」
「飽きた」
「そりゃ良かったな」

興味無さげにランサーはまた己の世界に没頭する。ピアス引きちぎってやろうか、となまえは一瞬考えてしまった。そう、一瞬考えたのだ。

「ばか」
「いっで、引っ張んな!」

一瞬考えて行動に移した。引きちぎるとまではいかないがその銀色のピアスを引っ張り、顔をしかめる。

「ランサー」
「今度はなんだよ!」
「臭い」

すんすんと鼻を利かせなまえはもう一度同じ言葉を繰り返した。臭い、と。

「別に良いだろ」
「じゃあ魔力供給しない。最近苦いもん」
「……」

ふい、となまえは視線を外し起き上がって立ち上がった。「寒くなったから先に帰る」と潮によってぱりぱりになってしまった髪を手で解かしながら港を後にする。

「ったく、待てっての」

その後を慌てて追いかけるランサー。もう少し釣りするんじゃないの?と聞けば気が変わったそうな。隣を歩くランサーの手にある数匹入ったバケツの把っ手を何も言わずに握り締め二人は歩く。


「……なあ」
「ん」
「…………禁煙がんばる」
「………………1日一本なら許してあげる、かも」


二人で持つバケツは、まるで手を繋げているようだった。




繋がらない手繋がる影




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