細い細い線がぶつりと切れたように意識が引き戻される。腕に力を入れれて起きれば穏やかに眠る彼女の顔が見えた。

「ランサー!海南は?!」

ずっと隣に居たのだろうか、士郎はそう言って椅子を立つ。しかしランサーはそれに何一つとして答えることなく、ベットから起き上がった。

「ランサー…?」

そんなランサーを不審に思ったのだろう。しかし、彼は苛立たし気に自らの拳で壁を殴った。殴った場所はヒビが入りへこんでいる。


「…なにが………ッ!」


その先に言葉などない。
彼は部屋を去る。士郎はただ目を見開き、ランサーの背中を見送って茫然と立っていた。だってあの男が。





ランサーの頬を伝う雫を士郎は見逃さなかったのだ。




****




宛もなく彷徨う。
ランサーは此処は夢の世界だと言った。例え、ここで何が起きようと未来に影響はない。

ならば、する事は決まっているだろう。


ふらりふらりと足を進めていたらガサッ、バタッという音が聞こえた。不思議に思いそちらに足を向けると人が、倒れていた。ゆっくりと近付くと動く。顔だけあがって、フードから覗く目と、合った。

「―――っ」

左目は白濁していて、正直言って、見てられないほどに惨い。けれども視線は離さずいつものように笑って見せた。
近付いて膝をつく。弱々しく呼吸をするその姿に胸が苦しくなった、ような気が。

言葉が出ない。
なんて声をかければ良いのかわからない。「大丈夫ですか?」…大丈夫な訳がないだろう、馬鹿か。そんなありきたりな言葉なんか気休めにもならないわ。

そろりと手を伸ばし、フードを取る。倒れていた人の肩がぴくりと跳ねた。それでも気にせず、口元についている赤い血を指先で拭ってあげようと、触れて。


「…さわっちゃ駄目だよ」


掠れた声で、拒絶の意を見せた。
動けないのか、せめて笑おうとしても上手く筋肉が動かずに酷く歪んだ顔が出来上がる。


「きたない、からね」



―――その台詞をきいて、覚悟が決まった。


所詮夢なんだ、これは。
あたしは救うと言ったじゃないか。何をしても未来に影響がないんだ、ならば。なら、なら、幸せを見ても良いんじゃないか。偽りであろうと、構わないのではないか。ここでの出来事は、夢。





左手に右手を重ねた。骨が、血管が浮き上がっている冷たい冷たい病人の手。

「バーサーカー借りるよ、おじさん。ここで待っていて。蔵硯殺してくるね」


優しく微笑んで、彼女は無いた。

「バーサーカー、動ける?」

闇に問いかければゆらりと現れる黒い騎士。

「魔力が必要なら持って行って良い。だから、貴方が喚ばれた場所へ連れて行って」

貴方のマスターの為に。

通じたのか通じていないのか、それは定かではない。単に今のマスターであるあたしの命令を聴いただけか、あるいは。

始まる救出劇
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