ふわりと呼ばれるように足を進めた。耳をつくのは金属同士がぶつかるガキィン、キィンて音。夢見てるのかな、あの時の。聖杯戦争が終わって、時たまみる戦闘シーン。誘われるようにふわりふわりと足が進む。



白い女の人が見えた。



「―――ぁ」

そして、漸く気付く。
違う、違う。こんなのは無かった。これは、違う。第五次聖杯戦争じゃない。あたしの見ていたもの、経験したもの、じゃない。
帰ろう引き返そう、間に合う。間に合うはずだ。そうだ、間に合う。

キィン、と。
耳をついていた音が、止まってしまっていた。


「一般人、?」


笑え、よ。
駄目なんだ、駄目なんだ。このバッドエンドばかりのハッピーエンドが見えない物語は。何故、あたしは呼ばれた。確かに  は全てを救いたいかと聞いてきた、だから応えた。けど、これは、


無意識の内に心臓を押さえていた。怖い、よ。



『――人払いの結界はしていた筈だがね』


聞こえた声だって、ああ駄目だ、今は何も考えられない。逃げなきゃ、去らなきゃ、戻らなきゃ。
足が竦む。何故だ、この程度。何に怯えてるんだ。

一歩、二歩と下がる。
漸く後ろを向けた。そうだ、このまま走れ、走れば良い。


足に力を入れた時、後ろから銃声と、風を切る音が、聞こえた。






「…チィ、一体なんだってんだよ…!」

振り向けば×××青。赤い槍を構えて向こう側を威嚇している。

「…ぁ、…う……」

声が出ない。情けない。おかしい、こんなのはあたしじゃない。
赤い目が合った。そして、仕方が無さげに溜め息を吐く。

「朝起きたらオメェは居ねぇしよ、言峰の野郎から電話来たかと思えば海南が起きねえだとか、抜け殻だとかさっぱり訳わかんねえ事ばっかりぬかしやがる」

威嚇を解いて、あたしを抱えた。


「悪ィな、邪魔した。続けてくれや」


そう言うや否やあたしを抱えたまま高く跳躍する。流石は俊敏Aと言ったところか。

「らん、さー」
「…まあ言いてえ事は山程あるんだが、こうして居られるのも大体三十分が限度なんだよ」
「…!」

それを聞いて脱力感が押し寄せてきた。ランサー、が。

タンッ、と何処かに降ろされランサーはあたしの目をしっかり見て早口で大事なことを一気に伝える。


「良いか、海南。此処はアンリマユがみせてるお前の夢の中だ。だからこの世界の人間は皆偽者、俺たちが居た世界とは全く無関係。だがその割には五感や痛覚なんかは携わってやがる。そしてお前は向こうで無意識の内にバゼットから権限を戻して俺と契約した。だからどうにか魔力を伝ってお前の意識に潜り込んだんだが――制限時間付きだ、今はもう直ぐ消える。あと、この世界はあの時みたく繰り返さない。例えばお前がここで死んじまったらもう戻ってこれねえんだ」


だから、と。
ランサーは海南を強く強く抱き締め、誓うように、悔やむように、言う。




「…必ず、来るから。無茶だけはぜってぇにすんな」


消えていくランサーに、海南は、言ってしまった。






「ひとりに、しないで」


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