ぼたりと落ちる泥。
それは全てを溶かす。

「これが貴方達が求めた聖杯だよ」

憐れな者を見る目で少女は皆を見た。その間にも孔は少しずつ開いていく。“ソレ”が良くないものだというのはそこに居た皆が分かった。


「――、ど、して………貴女、は」


アイリスフィールには“ソレ”がなんたるか理解出来たらしい。理解は出来た、が納得ができない。

「説明する意味あるの?」

が少女は説明をする気など微塵もないらしい。あきれたように、馬鹿にするように。


「だって別に良いよね?あたしもこの子がどれくらい強いのか見てみたいし最強って良いよね。あたし一回くらい最強キャラになってみたかったから!」

それは純粋な海南の願い。

「あたしはだってね、みんなを殺して、憎くないけど、大好きだけど大好きだからあたしはあたしは、あたしは嫌、あたしは嫌だから、……みんなが…………



…………、みんながあたしのこと嫌いになればいい」

少女は笑う。
少女は叫ぶ。



「あ、ははははははははははははははははははははははははっ!!!だってそうしたらあたしはみんなを殺せるしみんなはあたしを憎んで死ねる!!最高じゃん!!あはははははははは、は、は、」

「海南!それは違う!!」



その笑い声を遮りランスロットが叫ぶ。

「貴女は寂しかっただけですっ!このようなことを望んでなどいない……!!」

ピタリと少女の動きが固まる。
ゆっくりと顔をあげて、揺れる瞳で前を向いた。

「―…、当たり前じゃん。寂しかったよ。哀しかったよ。こんなこと望んでないよ。本当は、開けさせないつもりだった」
「ではなぜ…!」
「しょうがないじゃん!!あたしだって最初はちゃんと考えたよ!!アイリが切嗣と生き残る!雁夜おじさんが幸せになる!桜が壊れない!セイバーとバーサーカーが和解する!ケイネスが生きている!ディルムッドが世界を呪わずにいる!龍ちゃんが生きてる!綺礼が時臣を殺さない!時臣が死なない!ライダーが死なない!ちゃんとちゃんと全部考えてたよ!!ちゃんと幸せになってほしかった……!!」


けど、と。


「ランサーに嫌われるならこんな世界要らない!!こんなあたしは要らない!!ランサーが絶対あたしのこと認めてくれるって!思ってたから頑張れたのに……っ……なのに……、」

「……わかってる、わかってるよ。あたしは居ちゃいけないんだ。あたしはここに居ちゃいけないんだ。あたしは死んだんだ。だから死ななきゃだめなんだ。生きてちゃだめなんだ。あたしは、ただ、みんなの世界を壊してるだけなんだ」

「なら最後くらい好きにさせてよ。みんなあたしのこと嫌いになってよ。みんなあたしのこと憎んでよ。そしたらあたしは昔に戻れる。あたしはみんなを殺せるから。そしたら、あたし、は………」




はあ、と息を吐く音。

「ディルムッド」
「はっ」
「疲れた。早く終わらせて、どっか、どこか…誰も知らないところに行きたい」
「マスターの仰せの儘に」

黒の槍兵はそう言って振り返り構える。

「だそうだ。貴様等はここで死ぬ。……安心しろ、きっとこの泥はここら一帯を焼き尽くす程度だろう」
「……!」
「阻止したくば俺を倒し、マスターを殺すことだな。最も叶う筈もないが」


槍を構えるディルムッドにランスロットとセイバーも剣を構える。

ディルムッドが槍を振りかざす前に、朱の槍が三人の間を裂いていた。

謳えない望蜀を悲願
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