日が差した。


眩しくてゆっくりと目蓋を開ける。声を出そうとして、出ないことに気が付いた。ああ頭痛いし、なんだよもう。

視界に映える青。
それはあたしの頬をゆっくりと撫で、口付けた。



「おはよう海南。寝過ぎだ」




****




ランサーの手を握り締め歩くがどうにも足に力が入らない。ランサー曰くまるでバンビのようだと言ってきた。

「、おっと」

何度目か分からない足の縺れ。ランサーの腕に支えられ転倒は免れた。

「あっぶなっかしいなあ」
「ごめ、」

ひょいとランサーはあたしを横抱きにして持ち上げる。最初っからこうしてれば良かったと笑いながらこちらを向く。あたしは落ちないようにランサーの首に腕を回した。

台所に着けば神父様が驚いたようにこちらを見て、にやりと笑った。

「随分熱烈な起床だな」
「うらやましいでしょ。それより辛くない普通のご飯を下さい」

正直に言えばお腹が空いていたのだ。士郎のご飯を食べたいのだが、そこまで空腹が耐えられないのでここで食べて更に向こうで食べようという寸法です。あたしあったまいー。

ランサーはゆっくりとあたしを椅子に座らせる。

「俺がなんか作ってやるよ」
「わあい」
「ふん、変な物を出したら承知せぬぞ」

え、と声がした方を向けばいつものライダースーツ姿のギルが腕を組みあたしの隣の椅子へと腰かけた。

「な、てめ」
「おはようギル」
「うむ。良く戻ったな」
「だがギルはゆるさない」
「ほう。では我を嫌うか?」
「ううん、すき」
「当然よ」

胸を張りながらギルは早くせぬかとランサーに文句を言っている。彼も彼でお腹が空いているようだ。




****




食事が終わるとあたしは綺礼からの診察?を受け体が多少衰退しているだけだときいた。なんでも体を動かさなくて脳のなんとかがうんたらかんたらとか。よくわからんかった。
そしてランサーと衛宮邸へと足を進めた。大分良くなったとは言え足はまだ重たいので手を繋ぎながら。
ランサーが言うには皆大分心配していたそうで、だから連絡無しに帰ってびっくりさせようぜ!ということだ。

衛宮邸の前で深呼吸。
はあ、と息を吸って戸を開けた。




「たっだいまーーっ!!」




ばたばたという足音。

「っ、海南!」
「ただいま、士郎」

靴を脱ごうとしてつまづく。勿論ランサーによって助けられたのだが。

「ったく、座れ。脱がせてやるから」
「わーいランサーがやさしい」
「はあ?俺はいっつも優しいだろ」

そんな軽口を叩きながらランサーはあたしの靴を脱がせてくれた。立ち上がろうとしても力が入らず、結局ランサーに手を引いてもらうという始末。なんかあとでツケが回ってきそうで怖いわ。


「凛っ、桜ぁ、セイバーかわゆい!ただいまぁっ!」
「っ、ばかまだ走んな!」


居間にいた人達に駆け寄ろうてして繋いでいた手を引っ張られた。ぼふ、とランサーの胸板に顔面をぶつける。

「少しは自分の体のこと考えやがれ!二三日は走ったり激しい運動すんなって言峰に言われただろうが!」
「………む、怒鳴らなくても聞こえてるよ」

焦ったようなランサーに首を傾げる。そして、ひとつの結論に辿り着いた。


「ランサーが過保護になった」


ということだ。早く座らせてくれ。

「あらあら、知らない間に随分仲良くなったんじゃないの?」

凛がニヤニヤとした視線を送ってきたので「いいでしょー」と自慢してあげた。ランサーに手を引かれ隣に座って士郎にご飯を要求する。

「海南、それで?どうだったわけ?」
「えっとね、三回くらい死にかけた。痛かった。おしまい」

切嗣に殺されかけましたなんて言ったらどうなるんだろう。いや言わないけど。

「あとランサーがあたしを助けてくれたので二重丸です」
「ほう、それは何よりだ」

いつの間に居たのか、アーチャーがニヤニヤと笑いながら(凛と一緒だ)それで、と。

「ランサー、貴様は私に何か言うことがあるのではないかね?」
「ぐっ…!」
「ほう。礼も出来ぬとは。大それたものだな」
「あー!はいはい!アーチャーサンアリガトウゴザイマシタッ!!」
「三回回ってワンと言えばチャラにしてやろう」
「誰がいうかこの褐色野郎!!」


「平和だねえー」


桜が淹れてくれたお茶を啜りながらそんなことを呟いた。まるであの夢が嘘のように、平和で、しあわせだった。

「クーフーリン」
「あ゛ぁ!?」
「これからもよろしくおねがいします」

ふと、忘れぬ内に言っておかねばならない言葉が思い付いたのでそう言う。ランサーは何故か顔を真っ赤にして小さく「…そりゃ反則だ」と呟いた。

醒めた世界の幸せ
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