世界が鎮まる。
「ディルムッド!」
黒い騎士の体が崩れ、膝を地面へと付いて倒れた。無論それは彼女達が何かしたわけではない。ただ、彼が勝手に倒れたのだ。
ディルムッドを被っていた黒が昇華する。
事の元凶である少女を見れば膝を地につけ泣いていた。そう、泣いていたのだ。
「…う、…ぇ…うぅ…っ」
ぼろぼろぼろぼろと大粒の涙を溢しながら海南は顔を歪める。ふと、海南の前に男が現れた。
「おら、泣いてんじゃねえ」
「やあだ…!」
「顔あげろ」
言われた通りに顔をあげればパチンッ、という小さな音。海南は額を抑え、目をぱちくりとさせた。
「し、信じらんない…!泣いてる女の子にデコピンする普通!?」
「甘えんな。悪いことをした奴にゃあ仕置きが必要だろ」
う゛ー、と唸りながら海南はランサーを睨み付ける。だがしかし直ぐに駆け寄ってくる足音の方へ視線を向けた。
「海南ッ!無事か!?」
そう言って海南を抱き締め、彼女が正常だと理解して安堵の息を吐いた。
「……全く!貴女という人は…!」
「ごめんごめんバーサーカー。いや、助かりました」
「……私は、何もしていませんよ」
ふわりと笑うバーサーカーは海南の額に口付けようとして、
「おいこら海南!てめぇ一分前くらいに言ったこともう忘れたのか!」
「え、なに」
ぐいとバーサーカーと海南を離してランサーは海南を抱き締める。
「他の奴に抱き締められるのもムカツクっつたんだよ」
「え、そうだっけ」
忘れた、と海南は悪びれることなく言ってランサーとバーサーカーの手を引きながらセイバー達の元へ向かう。
「ディルムッド!」
「………っ、」
「…ごめんね」
倒れているディルムッドの頭をそっと持ち上げて謝罪する。ディルムッドは掠れた声で大丈夫だ、と言って笑った。だから海南も笑ってディルムッドの体を支える。
「貴女は、」
あり得ないものを見たかのような表情をするアイリスフィールに海南は苦笑いを浮かべて、ちらりと何処かを見た。
「ごめんなさい、アイリスフィール。貴女の中にあった英霊の魂全部もらっちゃった」
「…!」
「…今回の聖杯は、なくなった、かな」
切嗣とアイリスフィールは目をあわせて、何処か安堵感ある息を吐いて小さく笑っていた。
「でしゃばりすぎたね」
「ああ、全くだ」
その返答はアイリスフィールではなく、建物の上から降ってきた。そうしてそれは地上に足を着く。
「だが褒めてやろう。中々面白かったぞ」
「うっさいわ!大半がギルのせいなんだからね!」
そう言えばギルガメッシュは鼻で笑った。当然であろう、と。
「海南、」
「?」
名を呼ばれ振り返れば手を握られ視界を覆われた。
「起きるぞ」
「え、ちょ、ま!まだ言いたいことあるのに…!」
「駄目だ、限界がくる」
くらりと意識が遠退く。
「―――っ、みんなごめんね!してありがとう!!」
世界が暗転した。
終わりを見つけて