どこまでも少女は少女だった。

闘い方を知っていた訳でもなく。痛みに慣れていた訳でもなく。特段人を傷付ける方法を知っていた訳でもなく。自分を守る方法を知っていた訳でもなく。けれどもみんなを救いたいんだと、そんな無茶な願いを言いながら少女は青い英霊に笑いかけた。





雨が降る。

突き刺さった赤い槍を引き抜けば、その口から赤い血液がこぼれ出た。心臓は穿てなかった。けれども間違えなくこれは致命傷だ。数分もしないうちに死ぬだろう。

「あ、ははっ、負け、た」

それでも海南は幸せそうに笑うものだから、ランサーは苦笑いを溢して冷たい雨から海南を守った。

「頭は冷えたか、ばかやろう」
「は、は…らんさー、の、おかげ、でね」

海南は笑いながら息を吸う。まだ少しだけ、生きてられると。

「…ね、ぇ」
「なんだよ」
「はじ、めて会った、時、ぉ、ぼえて、る、?」
「ああ。俺が坊主ん家行って殺そうとしてた時だろ」
「、ん」

『イケメンさんに殺されるのなら本望なんだけど』、と。そんな言葉を思い出して苦笑いをした。

「ぁ、れい、じゅ、………ばぜ、……げなきゃ、」
「いや、そのまんまで良い」
「…、け……ど…」
「つか二度目の生なんざに興味なかったんだわ」

愛しそうに血に塗れ、雨に濡れた頬を撫で上げてランサーは目を細めた。

「お前が居たから、生きたいと思った。だから、良いんだ」

ゆるりとランサーは槍を持つ。海南はただ呆然と、眺めていた。雨が目に入り視界がぼやけるのか、多めに瞬きをする。


「この槍は今まで大切にしたもん全部奪ってきた。愛人も友も、息子も………自分の命も」


海南はただ瞬きを繰り返す。腕を持ち上げ自分を殺したその呪いの槍をいとおしそうに撫であげた。



「お前が死んだら俺も消える。けどお前から貰った魔力で俺は数時間は生きれるだろう。―――それじゃあ、やだよな?」



笑う笑顔に赤が散る。
綺麗だと、思った。



「…ずる、ぃ…ひと……」
「……かっ、オメェにだけは言われたかねえな」

二人の血液が混ざり合い一層赤くなった。海南は自分に覆い被さっているランサーの顔から降ってくる雫を見て呟く。


「……、ランサー、なぃ、て、る、?」


力の入らない指先で血に濡れた頬を撫でた。

「ばっかおめえ、こりゃ雨だ」

そっかと海南は納得して笑った。嘘が下手くそな人だと。

「お前こそ、泣いて、んじゃねえよ。せっかくの可愛い、かおが、台無しだ」
「……あめ…だ、よ…」

二人で笑い合う。
舐めあげればしょっぱい。そんな雨あるのかとランサーは言った。だから海南は空が泣いてるんだと、曇り空を見上げながら呟いた。


「ん、……ねむ…、……」
「あぁ……寝ろ。見ててやるから」


消えかかる体にもう少し、もう少し待ってくれと。ランサーはそれでも海南を見下ろしながら笑った。透けた手で髪の毛に触れればまだ感触はある。忘れないように、忘れてしまわないように。

「らん、さ………」
「ん」
「あの、ね。あえて、しあ、わせ、だった……、ほん、と…す、……」

言い終わる前に唇を塞いだ。まだ、まだだ。伝わる冷たさ、感じる唇、鉄の味。


「ああ、俺も、…幸せだった。本当に」


そう言えば笑いながら瞼を閉じた海南の頬を一度だけ撫でて、消える体に礼を言った。ここまで持ってくれて、ありがとう、と。



「―…あいしてる」



残ったのは冷たい一人分の、幸せそうな顔だった。





(だからこれは少女が頑張った結果。
だからこれは青年が少女を愛そうとした結果。
だからこれは■■■■■が少女を愛した結果。

擦れ違って捻じ曲がって、少女達は幸せそうに死んで逝った)

報われた魂
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