必要とあらば友だって愛人だって息子だって殺した。





予想外の攻撃にディルムッドは瞬時に下がった。

「貴方、は」

地面に刺さった赤い槍を引き抜き、彼は空を睨み付ける。そこには傍観を決め込んでいた金色が。

「遅いではないか」
「…テメェ、一体どういう事だ」
「見ての通りだが?」

悪びれる様子もなくギルガメッシュは笑う。

「元より貴様が海南の傍を離れた事が発端であろうに」
「チッ、」

ランサーは歯を噛み締め現状を把握する。黒い男の後ろにいる少女は、あまりにも『海南』のままであった。

「オイ、セイバー…、とバーサーカーだっけか?」
「貴方は…」
「おめえ等二人であの黒いやつ相手してろ」
「…!!」

赤い槍を持ち、ランサーは一歩前へ出る。しかしそれを黒い騎士が拒んだ。

「マスターの元へは行かせん」
「マスター、ねえ」

ランサーはハッ、と何時もの様に鼻で笑ってみせた。



「悪ィがソイツは俺の女だ」



ランサーが踏み込む。
槍と槍がぶつかり合い、火花が散る。残る朱の残像。ぶつかり合う音は一度にきこえても、三度四度とぶつかり合っている。たんっ、と身軽にランサーは距離を取った。

「まあ、強化されてるよなあ」
「ランサー、貴方は一体、どうするつもりだ」

ランスロットはこの状況を打破できる手立てを知っているのではないかと、青い男に問うた。




「海南を穿つ」




え、と。
何を言っているのかと。あの人は貴方の、××ではないのかと。
ただランサーはつまらなさそうに目を光らせていた。

「それが最善策だ。このままじゃ埒が明かねえし、アイツも望まない。あの孔をぶったぎっても今のアイツがいる限り意味がない。だから、俺がアイツを殺す」
「待て!それでは…!」


あまりにも、救われないのではないのかと。

「早くしねえと全員呑み込まれるぞ」
「―…承諾した」

セイバーは剣を構えランサーの隣に立つ。バーサーカーは、何も言えずに、構えた。

踏み込む三人。
ランサーは持ち前の素早さを生かしディルムッドの脇を通りすぎる。それを穿とうとすればセイバーとバーサーカー両方に剣を振るわれ拒まれる。




「よお」
「うん、よく来ました」

少女は笑う。

「でも遅かったみたい」

泣きそうな顔で笑う。

「遅かねえさ、」

ゆらゆらと揺れる黒にランサーは槍を構えた。アレには触れられないと分かっているから、神経を集中させて。

本当は言いたいことが山のようにあった。言いたかったことが、沢山あった。けれどもそれは言ってはならないのだと、今言っても駄目なのだと。そう、本能が告げている。

"もし""例えば"二人が生きていられたのなら。
生きて、戻れるのならば、その時はきっと、

「―…始めよっか、ランサー。ランサーがあたしを殺してね?」
「ああ、その心臓、この俺が貰い受ける」
「うん、けどまだ死にたくないから頑張っちゃうわ」

へらりと何時ものように笑う少女が、あまりにも悲哀で。ランサーはそっと、瞼を閉じた。



「大好きだよ、ランサー」



黒い何かがランサー目掛けて放たれる。それを躱して槍を構え、矛先に力を籠めた。

「――、」
「ゲイボルグ?それあたしに意味無いって知ってるでしょ」


少女は呆れた風に溜め息を吐いた。因果をねじ曲げるその槍は決して少女に届くことはない。そう、それは知っている。

「もう、良いよ。ばいばいランサー、またね」

ぽっかりとランサーの足元に浮かび上がる黒い円。ずぶずぶと足元から沈んでいく体。けれどもランサーは慌てずに、ただ瞳を閉じて、目をあけ、呪いの槍を――…、






「え、?」







ストン、と。
胸の中心に刺さる槍。

「――…、」
「確かにお前にゃあゲイボルグは通用しねえ。だから、投げた」

ランサーは文字通り、ただ槍を投げたのだ。元より槍の使い手であるランサーにとっては簡単なこと。


泥が消える。
黒が消える。
孔が消える。




洗い流すような雨が、天上から降り注いだ。

悲壮を持って下す
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