「ギルガメッシュッ!!」


喚くような声が聞こえた。
大橋の上に居るのは黄金のサーヴァントと、今は亡きライダーのマスターである少年。だから少女は喚いたのだ。


「どういう事なのっ!話が違うじゃん!!」
「話?我はお前とこの件について話等しておらぬが」
「――…!!」


少女の瞳が驚愕の色に染まる。震える唇で呟いたのは、と、き、お、み、という4つの言葉。ギルガメッシュはああ、と言ってから殺した、と。少女に言った。

「当然であろう?」

それこそ話が違う。
何か言葉を発しようと、少女はギルガメッシュの硬い甲冑に触れる。喉に詰まった言葉が、口から出てこない。ただ、な、ん、で、と3つの言葉を呟いた。

「何故?何故だと?我が決定したからに決まっておる。嗚呼いくら夢想の中とはいえ、ライダーの奴は中々に愉しめた。流石は我が認めた男よな」

はくはくと少女は息をする。信じられない、そう、言っているのだ。

「…そうだな、ふむ。貴様の問いに答えてやるか」
「……?」
「“己が間違っていないか”…という問いだったな」

少女は更に目を見開き、顔色を悪くした。何故今なのか、ききたくない、ききたくない、と。甲冑に触れていた手を離して、首を振りながら震え出す。


「痴れ者が―…!間違っているに決まってるだろう!」


紅い紅い真紅の瞳を見開き、ギルガメッシュは少女の頭を乱暴に鷲掴んだ。少女はただ顔を歪ませ、それら全てを拒む。

「貴様はセイバーに説いていたな、過去の改竄など無意味だと。今の貴様がやっていることと何が違うと言うのだ!己がなし得れぬ事を他者に説くなど言語道断!!」
「ちが、う!あたしは、!これはあたしの夢で!未来に影響しない、あたしの世界でしょ!?」
「戯け!貴様は喩え未来に影響するとしても同じことを繰り返すに決まっておる!」
「…!」
「見てみよ」

掴まれた髪の毛を引っ張られある場所を向かされる。そちらには、ライダーのマスターが呆然と目を見開きこちらを見ていた。

「こうして成長してゆく命を貴様は止めようというのか?それが幸せとやらだと言うのか?」
「っ、別の世界なんだから構わない……!!」

けれども少女は認めなかった。ひたすら拒み続けた。
自分は悪くなどないと。自分は、間違って居ないと、己を正当化させようと首を振る。

「あたしはっ、あたしの望む世界を創った!!」
「何のためにだ」
「皆を幸せにしたいから!皆が生きて笑っている姿を見ていたかったから!!」
「ほう。そして貴様は貴様が守ったという“衛宮士郎”という存在を消し、鷹作の“エミヤ”という存在までも殺すのか。皆の幸せを望むという貴様は遠坂凛にも出会わず、あのセイバーすらを消しランサーにも出会う事すらない未来を貴様自身が望むというのだな」


はたりと。
呼吸が止まる。


「結局貴様は、今見えるものしか救わんただの能無しだ」


そこまで言って、ギルガメッシュは少女を解放する。少女は立つことなど出来ずに、ただアスファルトに座り込んでいた。涙を流す訳でもなく、ただ、理解できないと。乱れた髪もそのままに、瞬きすら忘れ、ただ、目を開いて何かを見続ける。

自らの両手を見て。
ギルガメッシュを見て。



「それだから、貴様は見限られるのだ」



走り出した。



「―…くっ、…ふははははははははっ!!良いぞ海南!それでこそ我に仕える道化だ!!」

甲高い笑い声が、夜の空気を震盪させていった。さて、とギルガメッシュは笑う。メインディッシュは出来上がった。あと、一歩背中を押してやれば良い。そう、あと一歩。


「また違った悦を見付けられるやも知れぬぞ――…綺礼」


クツクツと男は笑う。
いとおしそうに目を細めながら、少女が走って行った方向へと自らも足を進めた。

理想主義者の戯れ言
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テーマ「人外ファンタジー」
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