吐きそうだった。
いや、吐きたかった。



教会はあくまでも中立の場だ。
だからマスターであるあたしは本来ならばここに居れはしないのだけれど、ここしか居場所がない。だから嘘をついてまだここに留まっていた。

長い長い会話を右から左へと聞き流す。何だよギルガメッシュの野郎楽しそうじゃないかふざけやがって。

二人分の静かな笑い声が聞こえて、あたしは瞼を開けた。

「ギル、怒るよ」
「む、起きていたのか」
「ギル」

咎めるようにそう言って眼球だけでギルを捉える。彼は分かっておる、とだけ言ってワインを煽った。本当に分かってんのか。

「……もうこれ以上やること増やさないでよ…手一杯なんだから…」

ごろり。寝返りを打って縮こまった。体の疲れは取れそうにない。

「時に海南よ」
「んー」
「貴様、一体どうするつもりだ?」

ギルガメッシュの問いかけに数秒間をあけてまた寝返りを打つ。視界に入った男二人を見て、だるいけど話してあげた。

「……ランサー返して、雁夜おじさん合流して、バーサーカーと話して、あと…………聖杯はあたしがどうにかする」
「ほう」
「だから休ませてー…暫くしたら起こしてよ…」

目の上に腕を置いて仰向けになる。あー、眠たい。

「……聖杯をどうするつもりだ」

綺礼の問いかけには無視。もうやだ。あたしは眠ると決めたんだ。残念でしたーぶっぶー。




****




「此処に居るかなぁ」

ギルに付き添いを頼み、例の廃墟へと足を運んだ。しかし居るのかなあ。一度場所を特定された在処にに留まるような男だったっけ?

「安心しろ海南」

ふっ、とギルが笑う。
なんで?と見上げるとギルは顎で前を指した。ふとそちらを見る。
そこには槍を携えたディルムッドが立っていた。

「うっわ気付かんかった!すっご気配も足音もないとか」
「戯け。貴様が弛みすぎているのだ」
「えー」

そっかなあ、と首を傾げる。すると向こう側からあたしの名を呼ぶ声が聞こえた。

「……その男は、」
「ん、へーきへーき。してケイネス先生いる?令呪、返さなきゃ」

ちらりと令呪を、見せれば驚愕したように目を見開く。いや、彼ならきっと気付いていたのだろうけど。
ディルムッドはあたしを見つめる。あらやだ良い男。

「居るんだね?」

うんともすんとも言わないディルムッドに溜め息をひとつ吐いて、返した。

「近くに居るならいいよ、出来るだけもう聖杯戦争に関わんないでって言っといて。それじゃねぃー」
「…!待ってくれ!」

切羽詰まった声に驚いて振り返る。眉を下げまるで捨てられた犬のような表情(どくり)に(どくり)胸が高鳴った(どくり)

「海南、貴女はもう降りるべきだ」
「……」
「サーヴァントはまだ5体居る。だがこの聖杯戦争はもうじき終わるだろう。貴女が聖杯に何を望むのかそうまでして叶えたい願いなのか、俺には判らない。だがこれ以上貴女が傷付く姿を俺は…見たくはない」

何かを言わねばならない。けれども何を言えば良いか分からなくて、あたしよりも先に声を発したのは隣の男だった。

「―…くっ、なんだ海南。貴様、狗に好かれやすいようだな」
「やったね。あたし猫より犬派」
「海南!」

頼むからと彼は懇願する。
けれどもそれは、貴方には関係ないことではないのだろうか?


「やぁだよ」

拒否を生んだ道
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