「あの男はなんだ」


ソファに寝そべってワインを手にするアーチャーに問いかければん?と顔をこちらに向けた。

「何とはなんだ。サーヴァントに決まっておろう」
「何故8体目のサーヴァントが…」
「そこらは気にするでない。それより綺礼」

体を起こしワイングラスを机に置き指先を組む。その顔は真底愉しそうに、

「海南のところに行け」
「は、」
「あの狗は消えた。本来我が赴くべきなのだろうが――貴様に譲ってやろうではないか」

何を譲るというのか?
ただこの男は愉しそう笑っているだけだ。





「良いか綺礼。アイツが壊れかけているのならば優しく抱擁し、慰めてやれ。必要とあらば抱いて満たしてやれ。決して、壊すなよ」




****




少女が寝ている筈の扉の前に着く。せめてもの配慮で、ゆっくり扉を引けば、少女が、居た。
起きる筈のない、起きれる筈がないのに、少女は扉の目の前の床に座っていた。処置をしたままの姿で肌を惜しみ無く曝し、シーツの上に座っていた。

その瞳は驚愕に染まっていて、絶望に揺れていてとても、綺麗だと。


晒された肌は傷だらけに。
それ以上に壊れかけた心。


何よりも、綺麗に見えた。
膝を折り視線を合わせれば漸く他の存在に気付いたのか、一度瞬きをして、わらっ、た。



「どうし、たの」



綺麗に笑ったからか、その姿は今まで見た何よりも美しく、目が眩んだ。
その肌に触れれば酷く冷たく、柔らかい(肉を引き裂く)抱き寄せれば容易に腕の中に収まり(骨が砕け)


「…なにも、見ていない」



自分でも何を言っているか分からなかった。

けれどもそう言えば、目の前の壊れかけは動かない筈の右腕すら駆使し背中に腕を回して、縋るように体を寄せ嗚咽を漏らす。


「…う、ぇ………う…わああぁぁんっ!!!」


きれい、きれい、と何度も私の名を呼び縋る姿があまりにも儚く、今この小さな存在を突き放してしまえばきっと壊れてしまうのだろう。ずくずくと疼く欲望に蓋をして、美しい少女を強く抱き締め笑った。

衝動唱導
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テーマ「人外ファンタジー」
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