一瞬光った後にザァァアという音がかき消されてしまうほどの大きな音が鳴り響く。行き成りの光に驚くがその数秒後に落ちる音に驚くことはなく、ただ布団を握って堪える。

別に雷が怖い訳ではない。そんな乙女精神は残念ながら母上のお腹の中に置いてきた。
しかし30分以上この調子だ。雷と言えば数分すれば次第に遠退くもの。なのに、寧ろ近付いて来てるとは何事か。世界終了のお知らせか。


恐怖、というよりは不安、が募る。何が不安なのかと問われれば分からないが、とにかく、言い様のない不安が頭を占めてどうしようもないのだ。


多分、一人ということもあってだろう。だから、部屋を出た。人気のない廊下は闇に包まれている。
自身を抱くように腕を摩り、ゆっくりと足を進める。どくんどくんと大きく鳴る心臓。いや別にお化けとか信じてる訳じゃなくてですね、ただ今2時で雨降って雷鳴ってるっていうですね、状況が揃い過ぎてる訳でして。



じめじめとしている廊下を歩いていると話し声が聞こえてきた。それは本当に小さく、囁くような男女の声。何を話しているのなんて、分からなかった。

曲がり角を曲がる。
この先も曲がり角、けれどもその先はガラス越しに見える。見えたのは青と朱。



「――――」



厭だ、と思った。

厭だと思ったのに、自棄に納得した。ああそっか、って。不安が膨張して体が震え出す、目が熱くなる。あたしは一体何を勘違いしてたんだろう。




ただ気付いたら、冷たい世界に独りきりだった。


キコキコと軋むブランコ。ぐちゃぐちゃぬちゃぬちゃと土の泥濘に靴が汚れ、染みている。雨は止まない、雷は止まない。
ゆらりと黒い影が目の前に立っていた。形という形はなく、黒い靄のように、雨のなかに在った。

「助けたのにね。誰も誉めてくれなかったね。都合の良い世界を創ってあげたのにね。幸せな終わりなのにね。結局報われないんだ」
「…のぞんで、ない」
「好きなのにね。愛してるのにね。執着してるのにね。依存してるのにね。結局取られちゃうんだ」
「……」

キコ、キコと。雨の音に紛れて淋しく軋む。光が落ちる。音が鳴る。相当近いのか、地響きまでしだした。

その影はニタニタと嗤っている。



「誰よりも愛してるのに誰にも気付かれないんだそうだ間違えたんだあの時に殺しておけば善かったんだだって邪魔だもね皆皆自分のものにしてしまえば善かったんだそうすれば淋しくないものね染め上げてしまえば善かったんだだってこの世界を誰よりも何よりも愛し焦がれてたんだもの自分の為の世界だものそれなのに救えるだなんで自惚れて無力な癖に力なんて無いくせに見栄はって自分は報われなくて善いなんて悲劇のヒロイン気取ってどうせ死ぬしかないのに呪われてるんだよ皆に死ねって思われてるのに気付かないんだ邪魔なのは誰なんだろうだって要らない子だものね必要ないものね死ぬしかないから死ぬしかないから死ぬしかないのに死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ね死ね死ね死ね死にました死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねました死ね死にます死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ殺「失せろ。貴様の様な怨念が我の前に現れるなど喩え地獄の果てだろうが赦さぬ」





散乱するように消えた靄。
それを消した人を見上げる。同じようにべちゃ濡れで、真底不機嫌そうだった。

「何をしている」
「…うん」
「……………」

べちゃ、と音を作り出して近付いてくる。雷が光った、から肩が跳ねた。

「ど   笑う ので  」

ゴロゴロ、と音によりほぼ聞き取れなかった。ただ笑えと言いたいのだろう。

「十秒、まって」

訪れるのは雨の降る音だけが漂う沈黙。たった、十秒。宣言したとおり十秒経って、彼女は顔を上げた。




「――何してるの?ギル」




へらりと、何時ものように笑って見せた。なのにその顔は今にも、消えてしまいそうな、儚さを持っている。

「見るに堪えんな」

ギルガメッシュはそういうなり彼女の腕を引き、立たせ何処かへ向かう。いや、向かう場所など決まっているのだろう。




****



ちゃぽん、と立ち込める湯気。


「それで?あの魔術師と狗が抱き合ってたと」
「うん」


狭い湯槽の中二人が向き合っている。足と足とが触れ、時たま蹴りあげ、と繰り返していたら結局お湯は入った時の三分の二ほどまでに減っていた。

「それだけか」

真底呆れた、とギルガメッシュは息を吐く。それに彼女はムッと頬を膨らませた。

「貴様はあの狗を自分の意思で手放したのではなかったのか」
「ちがうの、だって、だって…」

だって、なんなのか。
自分でも分からない。うー、と呻き声をあげる。ばしゃ、と顔面にかかるお湯に海南は奇声をあげた。

「だってではあるまい。高々そのような事でアレに呑まれるつもりだったのか」
「呑まれるつもりなんて無かったよ。ギルが来なくとも、聞き流せた」

ほう、と馬鹿にした声でギルガメッシュはまたお湯をかける。それに海南は倍の量で対抗した。

「貴様!我に逆らうか!」
「さっきから顔面狙ってかけてくるギルが悪ぶへ!」
「フン」
「げほっ、はぁ、ち、上がるから!!そのまま逆上せて茹であがれ!」

最後に大量にお湯をかけ、颯爽と湯槽から出て浴室から退場していく。衣服はもちろん、タオルすら巻いていない裸体のまま同じ湯槽に浸かっていたのだ。年頃の女が恥じらいのひとつも無いのか、とギルガメッシュはつまらなさげに一人息を吐いた。


お遊戯の時間
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -