頬を撫でてもピクリともせず。


確かに死んでいるように見えた。けれども息はしている。だから、まるで脳は生きる事を止めたように、体は生きたいと酸素を摂取するように。ならばそれは結論からしてこの少女は死してると言えるのだろう。

「…海南」

目を、開けてほしかった。
こちらを見て、いつものように軽口を叩いてほしかった。


お互いに限界なのだ。
互いが互いを必要として過ごしてきた。それが当たり前だと、もう、それ以外考えられないとこの半年を過ごした。

なのに、この少女ときたら。

勝手に傷付き勝手に抱かれて勝手に何処かへ行って。
互いが互い以外を見ていなかったからそれに安心して一々「誰のモノか」など確認する言葉を口にする必要も必要以上に求める事もしなかった。それが「当たり前」だったから。


「…海南」


胸の内を覆い隠す感情は決して綺麗とは言えない。他の奴に抱かれた。夢の中とはいえ、本来俺以外誰も知らないトコロを他の奴に見られた。ああ、むかつく。

そっと額に額を重ねる。
今更手放せない。
コイツの拠り所になると決めた。傍を離れないと、誓った。



「早く起きやがれ、」



せめて。
繋がっていられるこの時間を、共に触れて過ごしたい。印を残していたい。感じて、いたかった。

だから目を開けて。
俺だけを、見てくれと。







「…ん、ぅ………でぃる、…むっど……」





****





瞳を開ける。
体を起こす。失敗した。

左側に力を籠めて体を起こす。
………成功した。


自分の体を確認すると包帯がぐるぐるに巻かれており、下着姿だった。外気に触れないようシーツを手繰り寄せる。

部屋を見回す。
扉の横に、ランサーが立っていた。

「ランサー…?」
「……」

腕を組み壁に凭れている。その姿全体は部屋の暗さに紛れ、良くわからない。

「……はぁ、良かった。…久しぶりに会ったねランサー」

ずるりと体を引きずる。シーツは纏ったまま、ベッドから立ち上がり彼の元に歩み寄る。

「……ねえ、大丈夫?魔力足りてるの?」

一歩、一歩近付く。
いつもと雰囲気が違う事に気付いて、手を伸ばした。

ぺたり。

頬に触れる。

「……なあ、」

頬が動く。

「言峰の野郎が言ってたんだけどよ」
「うん?」

「お前が望めば、この夢は醒めるんだとよ」

だから、なんなのか。
理解ができない。

「逆に言えば」







「お前が望まなければ」







「一生醒めることはねえ」










「……だか、ら?」

震える声で呟けば優しい手付きで頬から手を離された。それが、あまりにも優しい手付きだったから、

「お前はここに居たいだろ」
「………、」
「俺のことは気にするな、令呪はバゼットにでも移せば良い」
「………」

笑んで、触れていた手が離れる。なにも、なにも、温かくない。

「――…」

ばさりとシーツが落ちた。
手に力が入らない。意味が理解できなくて、意味が、意味がない。

ランサーはその目を細めそんな目で見ないで唇を動かしてあたしのあたしだけの何かを発したんだけど何かしたなら謝るからよく聞こえなかった。




「■■■■」




膝が床についたときは。
誰も居なくなってた。

涙に泪して消えて堕ちる
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