鋭利な刃物が降り注いだ。


一挺の剣が、少女と舞弥を切り離す。

「不様だな、海南」
「……ぅ……あ、」

輝く鎧は変わらず美しいままで。逆さに立てた髪は、今では恐怖にしかなり得ない。

少女瞳は既に虚ろで痛みすら認識出来ていないのか、ただ床に伏せて生きるためだけに呼吸をしていた。

「…立たんか」
「―…い゛ああっ、!?」

腕を掴まれ引っ張られる。宙ぶらりんの状態で、関節が外れた方の腕を掴まれ意識が覚醒したのか、痛みに喘ぐ。

「う゛、あ」
「その手を離せアーチャー!」

剣を構えたセイバーにギルガメッシュは一瞥するだけだった。興味がない、そう、瞳が物語っている。

「この娘を殺そうとしたのは貴様等であろう。我は我に遣える道化を回収しに来たまでのこと。勝手に死なれては詰まらぬからな」

太ももに腕を入れ、持つ。
痛みに顔を歪ませていた少女は小さく、何かを呟いた。本当に小さな声だったから恐らくギルガメッシュしか聞き取れていないのだろう。それをきいて、ギルガメッシュは唇を綺麗に歪ませた。

「愛犬が居なければこの様とは。ふはは、安心しろ。我は我だ。それ以外の何者でもない、唯一無二の王」

その言葉に安堵したのか、はたまた痛みが脳についてきたのか、ある筈の涙を流して瞳を閉じる。その姿は、本当にただの少女だ。

「時に衛宮よ」
「――」
「やはりあの雑種と同じか……、ふ、癪に障る男よ、貴様も、貴様の、むぐ」

ぐい、とその唇が意図的に塞がれる。弱々しく、けれども言葉を発させないには十分な力。その指先を見て、本人をみて。ギルガメッシュは少女の人差し指を咥え嗤った。
切嗣はなんのことか判らずに、けれどもその二人から視線は外さない。その視線に舌打ちをし、指を離してギルガメッシュは踵を返した。


「今宵は海南に免じて貴様等を生かしてやろう。その命、無下にするなよ?――観客は多ければ多いほどに盛り上がるのだからな」




****




困っていた。
何を、と聞かれれば英雄王たる人物が抱え連れてきた少女。穏やかとは言い難いが、瞼を閉じ息をしている。

「綺礼、こやつが起きる前に傷を治してやれ」

そう言い自らに少女を預け、自分は酒蔵に手を出すという始末。自分で連れてきたのなら最後まで面倒を見ろ、とは思ったもののどうやら肩の関節が外れているらしく治療は施した。その際に見たのは少女の胸元に広がっていた噛み痕、浮き上がっている、令呪。一体、どういうことか。この少女が、三体のサーヴァントを駆使しているだと?あり得ない、そんなことは。それに一体多い、八体目のサーヴァント?訳がわからない。

その少女はどうやら精神的疲労が大分溜まっているらしい。深い眠りについている少女に布団を被せてやれば、扉の開く音。


「海南の様子はどうだ?」


酒の匂いを纏わせ室内に入ってくる男は迷いなく少女が寝ているベッドに腰掛け少女の顔を除き込んだ。

「傷は処置した。しかし、精神的疲労がかなり溜まっているらしい。この調子だといつ目覚めるかわからんぞ」
「ふっ、いつ目覚めるかわからん、か」

何が可笑しいのか、ギルガメッシュは声を殺してクツクツ笑っている。するりと指先で少女の頬を撫で上げ早く起きろ、と小さく声を掛けた。
シャラリと金が擦れ合う音が聞こえ、ギルガメッシュは笑む。

「さあ、お前の愛しい主人は段々と死に体になってきたぞ?」

愉しげに声をかける。
無論、私とギルガメッシュ以外、この部屋に存在するものなど居ない筈なのに。


「離れろ、クソヤロウが」


――赤い槍を携え、ギルガメッシュを睨む青い男が、扉の前に立っていた。

救いを見つけたい
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