赤く赤く燃え上がる炎を見付けて階段をかけ上がった。せめて、せめてもってくれと願いを込めて(どうしてあたしが、)
壊すようにドアを強く開ける。もわっとした熱風が体に纏わり付き一瞬怯んだ。虫が飛ぶブーンという嫌な音も聞こえる。
「、…、!」
結果は歴然だった。
第一虫と炎という時点で気付いてほしい。雁夜おじさんはまさしく満身創痍という感じでそこに、居た。
「――ばっかじゃないの!?」
虫の亡骸を気にすることなく走り込む。問答無用で、その顔を殴った。勿論ぐーで。
だあんと倒れるおじさん。それっきり、動かない。虫達も何処かへ隠れに行ってしまった。
「はぁっ…、さって、」
ちらりとそちらを見る。
赤い魔術師は至って冷静に、あくまでも優雅に構えていた。
「今回、はっ、はぁっ……見逃してくれませんか。……あたしも、走りっぱなしで疲れちゃいましたし、おじさんもこの調子ですし」
息も絶え絶えに笑顔を浮かべる。汗を服の裾で拭いどうにかこの熱を逃がそうとぱたぱた服の中に空気を送り込む。
「…私が、生きて返すとでも?」
だそうだ。
「困りましたねえ、あたし、戦えませんし。うーん困った困った、」
全然困ってないよ本当は。
そんなこと分かっている時臣は何やら身構える。だから、何かをされる前にこちらが動かねばならないのだ。するりと、胸がいっぱいなった。
「令呪を使って命じる」
「――!」
「あたし達を連れて逃げて!」
キィィインと赤く光右の甲。すると横から何かに乗って突っ込んでくる黒い塊。下手したらこれ、巻き沿い喰らいますよねバーサーカー君よ。
伸びてきた黒い手にあたしは咄嗟におじさんの手を掴む。ぐん、と乱暴に引っ張られ肩が外れるかと思った。精一杯の力でおじさんを抱きしめ、まるで手荷物か何かのようにあたしを持ちうめき声をあげるバーサーカーに早く理性を取り戻せと強く願う。じゃなきゃ途中で雁夜おじさん落とすかもしんないわこれ。
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結局、コイツの理性が戻ったのは大分逃げてからだ。しかし理性が戻ると雁夜おじさんを肩に担ぎあたしを抱っこして移動するという素晴らしい技を見せてくれた。流石は騎士様である。
漸くアパートに着き鍵を差し込んで開けようとしたら、逆に締まった。はて、と思い家の中に入る。桜ちゃんったら鍵閉めるの忘れてたのかな。
「――海南様」
黒い鎧に身を包んだバーサーカーが何やら真剣な面持ちであたしの腕を掴み引き寄せ後ろに導いた。え、と思いながらも大人しくする。ゆっくり、部屋に入るバーサーカーの後ろについてあたしもゆっくり部屋にあがった。
「呵呵呵、」
は、と。
リビングに立っている小さい老人。なぜ、と。
「―…随分と派手にやったようだのぅ」
「なんで、いきてんの」
「何故?かか、何故かのお。この身老い耄れ故に忘れてしまったわ」
きゅ、と唇を噛んで拳をつくる。ああもうどうして上手くいかない、どうして上手くいかないのさ。もう良いじゃん、良いじゃんかよ。このままあと2日3日くらい、良かったじゃん。
「海南様、」
「!」
「どうかご命令を」
「…ほう、理性を取り戻したか。狂戦士めが」
「黙れ。この蛆虫が」
敵意を剥き出しににしてバーサーカーは身構える。しかし、ソイツは「敵わんなあ」と言って、足下から、崩れていった。
「…!まてっ、」
「待って、バーサーカー」
「しかしっ!桜様がっ」
「分かってる。から、お願い。雁夜おじさんも連れてって」
バーサーカーの動きが止まる。まるで何を言ってるのか、理解出来ないと。
「雁夜おじさん一人にしたらまたどうなるか分かんない。あたしは、行かなきゃ」
「……また、一人で行くのですか」
「?」
何を言っているのか。
一人で?
「当たり前でしょ。だって、バーサーカー達には関係ないし」
無関心に孤立