体のほとぼりは冷めることなく体にまとわりつく。ああきっとあの弾の所為だ。

「主よ」

お目当ての部屋に着いたのか、ディルムッドはあたしの手を離した。ひんやりと冷えていく。

「娘が起きました。体も特に異常なないということなので連れて参りました」
「分かった。…小娘」

ギロリと睨まれ一瞬怯む。んん、駄目だこれは。一回気持ちをリセットせねば。いーちにーいさーん、はいリセット完了。

「単刀直入に、「左腕に弾掠りましたか、盾になれずすみません。因みにあたしが何者かという問いには一般人であるとしか答えようが無いのでご了承下さい。あの青い男はまごうことなきサーヴァントですが、今回の聖杯戦争には関係ない者。まあ、マスターであるあたしも関係ない人間なんですよ、本当は。アレは時間制限付きじゃなきゃ呼べないみたいですけどね」

捲し上げるように一気に話す。流石に場が硬直した。けれどもケイネスの無事を確認したのならもうここに居る必要は、無い。やらねばならないことはまだあるのだから。ここは第一関門だったのだが、クリアしたようだ。肩の傷も治してもらえたし。

「傷、ありがとうございました。ディルムッド、ケイネス先生だけじゃなくてソラウさんも守ってあげなきゃ駄目だよ。じゃなきゃ、」


自滅するのは貴方なんだから。

くるりと踵を返す。かっこよく去ろうとか思ってるけど実は、辛い。今すぐ横になりたい。傷が塞がってるとはいえ痛いし、頭がぼーっとしている。体のほとぼりは冷めるどころかまた熱を取り戻し始めている。これなら多分、ディルムッドが傍にいるだけで彼を求めてしまう、また同じことを、繰り返してしまう。それだけは避けたい。

「、待たれよ!」

掴まれた腕を振り払うことも出来ず、振り返ることも出来ず。

「ごめんディル、本当にごめん。まだ駄目なんだ、多分もう一回、同じことしちゃう」
「――!」
「……だから、ごめん」

迷惑はかけたくない。
あたしとて契約していないディルムッドと魔力供給など本来は出来ない。ただこの熱が膨れ上がるほどにあたしの抗魔力は無くなり、彼の呪いによって理性が断たれる。だから傍に居たくないのだ。

力無く掴む腕を振り払うことなどせず足を進めれば容易に前進する。熱くなった腕を冷ますように前に付き出せば、体を、


「――俺は、貴女が構わないのなら、」


だから。

「今すぐにでも楽にさせてあげたい」

つまり、それは。
意味を理解してしまえば終わる、考えてしまえば終わる、考えるな、感じるな。嘘だ、嘘に決まってる。駄目だ見るな感じるな。

つんざくような女性の声が聞こえる。何を言っているかなど、わからない。

「主よ。この娘には膨大な魔力が蓄えられています」
「――なに?」
「それもかなり上等なものです」
「…、ディルムッド…!」

ばくばくと鳴る心臓が。


「熱も恐らく魔力の膨張によるもの。先程受けた特殊な弾による後遺症でしょう」
「だめっ、だって……!」
「……このままでは、死に至るかと」


そうしてる間にも体は熱をつくりあげる。どれが魔力なのかなんて、あたしには分からない。ただ熱いだけだ。

でも、


「おねがいだからっ、…貴方の意志を尊重して…!」


熟々女運のない人だと。
お願いだから、自分を壊さないで。

もう何が何やら分からない。頭はぼーっとしてるし体は熱いし、何をどうすれば良いのか何が正しいのか。



「……、折角救ってやった命を無下に捨てるのも勿体ないな。ランサー、お前に任せる」
「ケイネス!」
「何をそう焦るのかねソラウ。魔力はあって困るものでもなかろう、君の負担が減るだけだ」
「けれど…!」


くらくらする。
息があがる。
ふわふわと床に足がつかない感覚は、ディルムッドに抱えられているからだと気付くのに少しばかり時間がかかった。

欲望を渇望せず
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