2月3日_教会
「たのもー」
本物の教会に胸が弾む。だって教会なんて来たことないし。一応幼稚園はキリスト教だったが、そんなもん知ったこっちゃねえ。今のあたしは無宗教だ。
「……何用かね」
思わず目をパチクリさせた。いや、うん。分かっていたのだけれど…大きいなあって。見上げる形でその男を見た。
「せーはいせんそうについて聞きにきました」
「…、そうか。君が凛の言っていた。凛からも聞いているだろうが私が此度の聖杯戦争の監督役を勤める言峰綺礼だ」
「あたしは海南って言いますーよろぴくにっく」
軽い挨拶(?)を交わしてあたしは沢山ある長い椅子の一つに座った。
「って言ったものの、聖杯戦争については面倒なんで良いです。大分理解しましたし」
「では何故ここに来たのかね。保護を求める気は無さそうだが」
「めちゃくちゃ単刀直入に言いますと、あたしって全く魔力無いの?」
その問いは想像して居なかったのだろう。一瞬目を見開き、此方を見た。
「無い」
…そして、キッパリと断言されました。くそう。
はあ、とひとつ溜め息を吐くと彼は寧ろ不思議そうな顔をした。そんな彼の疑問を解消すべく苦笑いを浮かべて勝手にお話をする。
「いやあ魔力の滓でもあれば何か出来るかもとか思ったんですがね…ううん、これは本気で足手まといになりかねませんなあ」
「元より関わるべき人間では無いのだろう、君は。何故無理に関わろうとするのだね」
「あ、聞いちゃう?知りたい?」
さも鬱陶しいという顔をした綺礼にあたしは笑った。うーん、理由。理由…?
「強いて言うなら、ハッピーエンドを迎えたいから、かな」
曖昧で不確かな理由。
そうだそうだ、あたしは皆を幸せにしたいんだ。あと言いたいこともいっぱいある。
無論あたしの言うことに興味が沸いた綺礼はほう、と言葉を漏らした。
「それはどのような?」
「さあ?これから考えるよ」
「随分と計画性がないのだな」
「計画してもいざとなると上手くいかないのよ。…ただ、さ」
問題がある。それも大問題だ。
どうあがいても今のあたしはただのお荷物だ。邪魔だ。足手まといだ。だからどうにかして闘う術を手に入れればいけない。それも、敵と対応できる強力な。良い感じに頭が回って強い事は勿論、敵でも味方にでもなり得る仲間。
「つまりサーヴァントが欲しいです神父様」
彼は目を細めあたしを見た。
馬鹿らしい、そう言いたいんだろう。事実あたしもこんな巧い話がそこら辺に転がり落ちてるとは思っていない。いないのだが、
「…まず、君には魔力が無い。故にサーヴァントと契約すること自体無理だ。それに仮に、仮にだ。契約が出来る状態になったとしよう。どうやって手に入れるというのかね?サーヴァントは既に7体召喚されている」
「そりゃあ奪っちゃうに決まってんじゃん」
何を当たり前な、という意味を込めて視線を送ると「無い物ねだりだな」と言ってきた。その通りである。的を得すぎて楽しいです。
「いや案外出来るかもよ?あたしに以外な素質が!」
「……」
最早その視線は冷ややかなものしか含まれていない。下らない、帰れ。そう言われた気がしたからちょっとムカついた。
「ええっと、素に銀と鉄。……閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返す度に五度?……告げる。………天秤の守り人よー」
うん、出来は最低だ。第一覚えてないがな。何も起こらないのが当然の結果で、まあ呪文思い出して口に出すだけで契約出来たら苦労しないってね。
「………ランサー欲しい」
ぽつり、本音を口にする。綺礼がぴくりと反応したが無視だ、ああこの際自棄になってやる。ランサー欲しいランサー欲しいだって面白いし一番すきだし可哀想だし。だから、ランサーにするとずっとずっと前から決めていたのだ。
「綺礼ランサーちょうだい!!」
何が起きたかわかんなかった。
ただ目の前に迫った黒に目を大きくする。うお、見えんかったぞ。
「……何をした」
こっちのセリフだよばか野郎。
なんかいきなり死亡フラグを立てたっぽい。怖いわー。
「……?何もしてない、けど」
そう呟くと彼はじ、っとこちらを見詰めた。虚無の瞳があたしを映し出す。暫くするとあたしが嘘を付いてないと悟ったのか、その身を引いてくれた。
「?なに、なんかあったの?」
「……訊きたい事がある」
「どうぞ」
「何故、知っていた」
「?」
さっきからあたしの頭にはハテナしか浮かんでないような気がする。主語がない会話は嫌いだ。
「私がランサーのマスターだと」
「?そうなの?」
彼は心底驚いた顔をして、無表情に近い顔をしたがなんだか機嫌が悪くなったようだ。というより墓穴を掘ったと思ったのだろう。
「…先程、君がランサーを寄越せと喚いた瞬間に契約が“切れた”」
「!ランサーが死んだ!」
「な訳あるかアホ」
ぽん、と頭に軽い衝撃が走った。ていうか間違えなく今の感覚はチョップだ、チョップされた。痛くなかったけど。
「よお。昨日振り、っつった方が良いか?」
ニヤリと笑う姿に昨日の顔はなく、ただの好青年である。
「………」
んー、目を細め唇を尖らせて、色々思案した結果左の甲を見る。右の甲を見る。……何もなかった。令呪はどこに宿るか分からないんだっけか。足を見る。無し。腕を見る。……無し。
「令呪ない。謎、あたしじゃない」
「ランサー、魔力はどこから供給されている」
んー、と彼は目を細め口を尖らせた。それを見て綺礼が眉を寄せる。ランサーが眉をぎゅ、と寄せること数十秒。
「間違えねえ。パスは限りなく無に近いが嬢ちゃんからだ」
「あるぇ」
では令呪は何処に?
あたしが首を傾げると体が浮いた。急にひっぱられたし浮いたからびっくりした。心臓口から出るかと思った本気で。
「まあこれでテメエとはおさらばだクソ野郎」
「たんまたんま、あたしまだ綺礼に訊きたいことあるから。これどうなってんの?あたし、痛くも痒くもないのに簡単に令呪宿るもんなの?つかあたし魔力無いんじゃなかったの?」
疑問は尽きない。
ただ綺礼は何かを考えた結果、ひとつの答えを導きだした。
「分からん」
あ、ハイ。
疑問だらけの世界で