正直に言おう、覚えていない。




あの屋敷で何をしたか、思い出せない。ただ気付いたら、衛宮邸の前にいた。

幸いなことに家に人は居ない。とにかく脱衣場に向かい衣服を洗濯機に投げ入れた。自らもシャワーを浴びるために浴室へと入る。忘れよう、いや、忘れないけれど。あたしに成れ、あたしに成るんだ。



****



「―――遅い」


日付が変わったのに士郎が帰って来ません。反抗期か。バイトか。
桜も藤ねえも帰ってしまった、あたしも寝るだけなのだがこうも遅いと心配になる。拐われたとか、事故、なら連絡がくるだろうし。ああもうとにかく早く帰ってこい。


玄関が開く音がしたので居間で待つ。早く来なさいよ、ばか士郎。


そうして現れた人影に向かって、



「おっそい!何してた、の、?」



彼女の表情が固まる。

「……あ……はあ、はあ、は―――あ」
「は?意味わかんないんですけど」

しかし次の瞬間には何時もの彼女が居た。
荒い息遣いの士郎は床に寝転がって深呼吸をしている。そんな士郎を見て海南はどうしたものかと思案していた。正確にはどうしたら良いのかと、考えていたのだが。

「……殺されかけたのは本当か」

何やら物騒なことを言っている士郎に彼女は水を渡すべく台所に向かう。汗を浮かべて深呼吸をしている士郎に、彼女はコップを渡した。

「…何があったかは聞かないけどさ、まずいんじゃないの」

その、服とか。間違えなく心臓を狙っている。その続きを言おうとした瞬間、鐘が鳴り響いた。

「こんな時に泥棒か―――」

士郎はそんなことを言って舌を打った。そして、数秒して彼女の肩を押す。

「海南、泥棒っぽいからちょっと奥に隠れててくれないか」
「え、でも」
「大丈夫だって、何年間もここに一人で過ごしてるんだ。たまにあるんだよな」

困った困った、と言いながら海南の背中を押す。そんな士郎をちらりと見て、何かあったら叫んでよ、と言い廊下に出て、奥へと身を隠しに行った。






ばりばりがっしゃーん。

なんて可愛らしい効果音じゃあないけど、とにかく窓が割れる音が聞こえた。やば、とか思って走り出す。
見えた庭には空を飛んでいる士郎、と全身青タイツの男。うーん、言葉にするとなんとも緊張感が足りなくなる。
なんだか走る体制に入った男。ですので大きく息を吸いました。




「ア゛――――ッ!!!!!」




近所迷惑も甚だしい。
しかし、お陰様で青い男の動きは止まり、こちらを見る。きゃー良い男。

「ば、海南――ッ」
「ど阿呆。とっとと土蔵に入れって」

その言葉にハッとしたのか、中に転がるように入って行った。靴が無いのは残念だが、裸足で庭に行く。痛いがこの程度なら我慢できるな、うん。
ランサーは舌打ちをして赤い槍をブン、と一度振り回した。意味あんのかそれ。

「折角見過ごしてやろうかと思ってたのに、態々自分から出て来やがって…」
「ごめんちゃい」

えへ、と笑えばランサーは顔を顰める。

「子供を殺すのは気が引けるが…仕方ねえ」
「あはは、子供扱いしないでほしいな。ま、イケメンさんに殺されるのなら本望なんだけど、折角だから少しお話ししましょうよ―」

凄く変なものを見る目で見られてます。けど不思議と今なら死ぬ気はしないぜ。
構える必要すらないと言いたげに、ランサーはあたしを見据える。あたしはニコニコ笑顔。

「まずあたしはこのままじゃ殺されちゃう訳でしょ?」
「そうだな」
「だから考えた訳ですよ。どうしたら生きれるか!したらあたし頭良いから直ぐに思い浮かんださ!」

嬉しそうに、笑う。楽しそうに、笑う。本当に幸せそうに笑うものだから、ランサーは不思議がる。

「へえ、ソイツはおもしれぇ。是非とも今後の参考にしてぇもんだ。…で、嬢ちゃん。その方法ってのは?」
「あ、あたしの名前海南ね。方法は2つ。一つはあたし等は人間だから貴方に勝てない、なら貴方と同じものを喚ぶ」
「――」


僅かに。
向けられた殺気。

それでも愉快そうに愉快そうに、海南は笑った。




「んでもう一つは、貴方をあたしのモノにしてしまう。どう?完璧でしょ!」



パンッ!と手を叩き彼女はその場で回ったと同時に目映い光が、土蔵から漏れ出す。

「なん、だと…!?」

ランサーは酷く驚いたように土蔵を見詰めた。海南は心底詰まらなさそうに土蔵を見詰めていた。

思慮不足の結論
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