「え」
暗い暗い影が襲ってきた。覚悟はした、覚悟をして息を吐いて、唇を噛む。大丈夫あたしは、大丈夫。意思を保てる。
――――――ヨ■ ■ そ、
なのに。
――――■ノ あ■■ル人
その声は。
「此■ハ■■望マレた■界。」
聞いたことがあった。
懐かしいとさえ思った。
憎たらしいとも思った。
視界が元に戻る。
自らの手を見た。普通にあった。目の前を見た。影が居なくなっていた。
「…ぁ、れ……?」
あたしは普通だった。平常だった。だから怖かった。意味が判らなかった。
「え、うそだ…は、あれ、ぇ、え、なんで…?」
「海南!」
士郎が近付く。あたしの肩を掴んで体を揺らす。
「おい!大丈夫か!?」
「な、んで」
理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない理解できない。何も起きなかった、何も起きなかった、何も起きなかった、だから。
どこで狂った。
どこで間違えた。
どこで外した。
ショート寸前の頭で考えても何も浮かばない。ただ意味がわからない。
「嬢ちゃん!」
ランサーの声でハッとした。
「らん、さ」
体が震える。足が震える。声が震える。怖い。
「………ってる……」
「?」
「あた、し……しってる………!」
そう、アレをあたしは知っている。肉体ではなく中身の方を、あたしは良く知っている。あの声をきいたことがある。どこで、など。有り得てはいけない。
「どうして!有り得ない有り得ない!知ってちゃいけない!あれは、あれを、あれは………!」
そうして。
息を呑んだ。
何も見たくないとランサーにしがみつく。何も知らないとランサーにしがみつく。何もきかないでくれとランサーにしがみつく。あたしは、関係ない。
「……嬢ちゃん、」
あたしは結局、ワガママな子供だ。
「……娘」
「………」
「お前がアレを知ってるということは、人間でなくなるぞ」
「………」
アーチャーの声も無視をして、早くこんな悪夢は終われと瞳を強く瞑った。
近付く本性消える外性