それはきっと、この世界では人間などではなかった。
だからといって魔術師でもなく、ましてや英雄でもなく。然れど幽霊でもなく。

ではなんだと聞かれれば、それは、






1月23日_衛宮邸



単刀直入に言おう。
少女が、落ちてきた。

「…は、…ぇ……?」

それは誰が見ても異様だったし、あり得ないことだった。無論、衛宮士郎もそれをあり得ないこととして受け止めることができなかった。少女が空から降ってきたなど、誰が信じようか。

ただ衛宮邸の庭に少女が落ちてきたことは事実であり、ぴくりともしない少女に士朗は意識を取り戻す。


「お、おい!大丈夫か!?」


急いでサンダルを履き駆け寄る。少女の肩を揺らすがぴくりともせず、士郎は息を呑んだ。

だが、

仰向けにし、顔を見れば存外穏やかな顔で息をしていた。そのことに安堵の息を吐いて、女の子をこんなところに寝かせてはおけないと士郎は少女を抱え寝室へと向かったのだった。



事情は、あとで聴けば良いと。




少女が目覚めた時、何を思ったか。

「あ゛ー、ねむいぃぃ…」

ゴロゴロと布団の上を動きかけ布団にくるまったり足で挟んだりと、寝やすい体勢を探している。
そうして寝やすい体勢が無いことに気付いたのか、体を起こしボサボサな髪の毛を更にボサボサにした。


「…………ん、?」


首を傾げつつくあ、と大きな欠伸をひとつしてガンガンと鈍い痛みを伴う頭を無視し、襖を開ける。するとそこには長い廊下があった。ひんやりと冷たいが、彼女が居た所ほど寒くはない。むしろ暖かいほうだ。
廊下を滑るように歩き、何やら言い合いをしている声が聞こえたので、そちらに向かう。


「だから!本当なんだって!」
「そんなこと言ってもお姉ちゃん信じてあげないんだからねー!」
「本当のこと言ってるだけだろ!?」


「……?だれ、」


突然の第三者の声に二人は言い争いを辞める。そして、立っていた少女はまあ、「私は寝起きです!」という格好だった。

「お、起きたのか」
「……?うん」

首を傾げ未だに寝惚けているのか、この状況が理解できないようだ。

「アンタねー!一体何処の子よ!」
「ちょ、藤ねぇ!」

ガオー!と敵意剥き出しの女性に、少女はますます首を捻る。だから、こう言ったのだ。


「2012年12月16日」
「「……は?」」


二人の声が重なった。

「……違うんですか?今日の日付、ですけど」
「……今は2002年、1月23日だけど」
「おー、10年も違う」

へらりと少女は笑って二人が座っているところに同じように座った。座って、気付いた。気付いて、泣きそうな顔になった。




「……ど、何処ここ……」




今更か!と士郎はツッコミたくなったが今にも泣き出しそうな顔、というより不安にまみれた顔をされては言葉も出ない。士朗はとりあえず状況を確認した。


「え…っと…、名前は?」
「、海南」
「じゃ、じゃあ海南、さん?何処から来たんだ?」
「……北海道」
「旅行に来てたのか?」


「家で、寝てた」



流石の大河も、折れた。
まだあどけなさを残す少女は、真剣な眼差しでふざけたことを言ってのけた。しかしその後不安気な顔をされてしまったらどうしようもない。彼女は嘘など言っていない、それは直感が告げている。それにきっと、彼女だって何が何やらわかっていないのだろう。説明しろと言われても説明出来ないのだ。だから、仕方がない。




海南は暫く衛宮邸に住まうことになった。この広い武家屋敷に一人増えた。それだけでほんの少しだが温かくなったと、士郎は思う。




「…ごめんなさい」
「?何謝ってるんだ?」
「だ、だってあたし見ての通り一文無しですよ!?服やら何やら、何も持ってない…」
「あー、そっか、買いに行かなきゃ駄目なのか」
「だ、だから…」
「いや気にする事ないさ」


困った時はお互い様って言うだろ?そう言って笑う士郎に海南は正面からタックルを決めたのだった。

悪戯に興る
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