深夜、セイバー達と見回りに行くことになった。新都方面に行くらしい。

「あ、海南!はしゃぐな!」
「士郎士郎見て見てランサーに買ってもらったさー」
「だから走るなって!」

子供よろしく走り回るあたしを宥める士郎。その後ろを着いてくるランサーとセイバー。なんというか、仕方ないなあと言いたげな顔をしている。失礼な。
くるくる回りながら皆より先を走る。走っては振り返り皆を待つ。緊張感を持てとは言われたが、まあ、浮かれさせていただきたい。だってランサーから貰ったものなのだから嬉しくない筈がない。

大橋の近くに行き足を止めた。
ランサーがあたしを庇うように前に出てきて、セイバーもまた士郎を庇うように前へ出る。

「え、衛宮くん……!?」
「……セイバー」

凛とアーチャーコンビ、そして、その先には、


「ぬ?どうやら新手がきたようじゃな」



***



「ほう。誰かと思えばセイバーのマスター…とランサーのマスターか。いやはや、これはしたり。助っ人を用意しておくとは、遠坂の娘にしては頭が回る」

アーチャー達の目の前にいた年寄り。その姿を確認して、海南が硬直した。

「そんなワケないでしょう。アンタを押さえつけて白状させるのなんて、わたしとアーチャーだけで十分よ。あそこにいるのはただの観客、わたしとは関係ないんだから」

「……嬢ちゃん」

ランサーの呼び声に反応して肩を揺らす。顔をあげると心配そうな顔をしたランサーと目があった。

「大丈夫か?」

きっとあの年寄りが発する不穏な雰囲気に当てられたと思ったのだろう。海南はを縦に振った。それから眉間に皺を寄せ何やら考え事を始める。

「ふむ。隠しておきたかったが仕方あるまい。ワシとて、サーヴァントを三体三敵にまわしては生きて残れんからのう」

現れた黒い衣の女。

「キャスター……?」

戸惑いの声。それは海南に向けられたが彼女はただ一人思案に耽っていた。

「シロウ、下がって。あれはキャスターですが、キャスターではありません。……外装、能力はそのままですが、意思である魂を感じない。アレは―――キャスターの死骸を別のもので補っただけの模造品です」

昨日今日で、キャスター程のサーヴァントがやられた?

海南はそろりと手を伸ばし、ランサーの手を取った。それに気付いて、ランサーは海南の手を握りセイバーとアイコンタクトを取る。セイバーが頷いたのと同時に三歩下がった。

「ほう?さすがはセイバー、一目でワシのカラクリを見抜きおったか。いやはや、これでは慎二程度のライダーが敵わぬのも道理。キャスターも成す術無くおぬしに敗れたように、そこなアーチャーとランサーとておぬしの敵ではあるまい」
「――口上はそれだけか。敵同士とはいえ、キャスターとてサーヴァントに選ばれた英霊だ。その亡骸を弄ぶからには、相応の覚悟があるのだろうな」
「さて。ワシは使われなくなったモノを拾っただけよ。それを外道と言うのなら構わぬがなセイバー、それではおぬしの行く末は畜生にも劣ってしまうぞ?なにしろその身は最高のサーヴァント。ならば――このような死骸より、おぬしを奴隷にするが最上じゃ。その体、生きたまま我が蟲どもに食わせ、そこな死骸と同じ命運を辿らせよう」

その声にサーヴァント三人が反応する。

「貴様」
「とんだ外道だな」
「カカカ、何を憤る!所詮サーヴァントなど主の道具、どのように使役するかなど問題ではあるまい!令呪で縛られるも死骸となって使われるも同じ、ならば心ない人形と化すがうぬらの為であろう!」

合図だったかのように、二人の英霊が地を蹴った。

「アーチャー……!」

セイバーがキャスターに斬りかかる。高い抗魔力を持つセイバーにとってキャスターは敵などではない。容易く間合いを詰め、斬りかかった。その間に逃げようとしていた年寄りをアーチャーが捉え、一刀両断にした。

「そこまでだ」
「ぬ、う、なん、と――!」
「終わりだ魔術師。過去からの経験でな、おまえのような妖物は早めに処理する事にしている」

胴体になってもなお手のみで体を引きずりずるずると臓物を撒き散らしながら逃げていた年寄りの頭を刺そうとして――…、


世界が闇に染まる。


ここにいてはいけないと。
全身から汗が吹き出る。
海南はただ一度強く、ランサーの手を握った。


それは影だった。
そう、影だったのだ。


その影は世界を汚染する。空気を汚染し固まっている人間を見て、まるで獲物を見付けたように影が伸びた。その先にあるのは。

「と―――…」

士郎が走り出す。
けれども、それより先に。



「ランサー!」
「あいよ!」


海南がランサーの手を離し、ランサーはその標的へと飛ぶ。瞬間的な速さでは最速なランサーは神速で遠坂凛の元へ飛び、凛を抱えもう一度飛んだ。
無論士郎も足を止める。けれども、多少は走ったのだ。ランサーもかなり遠退いてしまった。



「海南―――!!」



士郎も、ランサーも少女の近くにはいない。盾を失った少女に向かって、影は襲い掛かった。

降りかかる災厄
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