夢を見た。


どうしようもなく平凡で、普通で。なのに何処かが壊れている世界。

学びの舎に置いてソイツは皆の中心だった。皆を笑わせていた。きっと、好かれていたんだと思う。

なのに、ソイツは独りだった。

朝も休みの合間も帰りも一人だった。誰かがソイツに話し掛けていたのに、ソイツは首を横にふり笑ってみせるのみ。


だから。
どうして態々誰も見ていないところでそんな表情をするのか。



堪らなく、ムカついた。



****



2月6日_衛宮邸



サーヴァントは基本夢を見ない。
だからそれは誰かの記憶である、と。誰のものかなど夢を見た時から気付いていた。

居間に向かえばソイツは不思議そうな顔でこちらを見ている。
その腕を掴んで、立たせた。


「ちょちょ!ランサー!?」
「行くぞ」
「いやいやどこにさ」

「あ?遊びに行くに決まってんだろ」


ニカッと笑えば、ソイツは驚いた顔をして嬉しそうに笑い、仕方ないなあ、と喜びを隠さずに言い切った。



****



バットを振る。手応え無し。

「くっそ…!」

一番遅いスローボールというのにも関わらず5球中1球打てれば良いというところか(これでも良くなった方なのだが)
遠くの方でちょっとした歓喜の声があがっている。何事かと野次馬に混ざりたい気持ちは山々なのだがまだ100円分やっていないので飛んできた白い球を見据えた。

案外早く終わった為に野次馬に混ざるべく皆の視線の先にあたしも辿った。

あらまぁそこにはイケメンが!

高い背にがっちりと締まっている筋肉質な体。切り目の鋭い赤い瞳。しっぽのように長い後ろ髪。銀色のピアス。かきーんとソイツは軽々とホームランをぶっとばしやがった。本人はぴゅうと口笛を吹いて飛んだ球を見送る。彼氏の付き合いだかで来たのかは知らんが女の人は皆彼に釘付けだ。


なんか色々ムカついたからもっかいスローボールのところに戻った。



打てない。空振りばかりだ。

「お前へったくそだなあ」
「…!」

いつの間に居たのか、フェンスの向こう側には先程の男が。

「うっさい!なんでアンタ打てんのさ!」
「そりゃまあ、簡単だからだろ?」
「簡単じゃ、」
「ほら来るぞ」

そう言われ前を向けば機械からボールが飛んでくる。もちろん、空振りである。ランサーは何故か中に入ってきて力みすぎだ、と。

「良いか、ボールをちゃんと見ろ」
「見てる」
「あとこうだ」

そう言うと後ろから二本の腕が伸びてくる。それはあたしがバットを握っている手の上から包むように握ってきた。

「一回力抜け」

飛んでくるボール。ぎゅ、と強くバットを握るあたしの手の上。引く肩。そして、振る。


「…おー」


見事にぶっ飛んだ。なんてことだ、あたし何も力入れてなかったぞ。

「な?判ったか?」
「…なんとなく」

離れる手と体。温かった体温が離れる。なんとなく、寒かった。

「次行こっか」
「ん」



****



何処かに行くといってもお金があまりないあたし達である(士郎からもらったおこずかいとランサーが綺礼からかっぱらってきたお金)から大抵は見ているだけだ。無駄遣いは出来ないし、さっきのバッティングセンターで十分楽しんだし。

雑貨屋さんに寄ってみる。目の前にあったから時間潰しになんとなく、程度である。鞄やら財布やらキャラクターのなんやら、という女の子ものがところ狭しと並んでる中にランサーはちょっとというかかなり似合わないのである。

「なあなあ嬢ちゃん」
「んー」
「これ、なんの意味があんだ?」

そう言ったランサーは所謂女性ものの下着、ブラジャーとパンツがセットになっているとっても可愛らしい、まあ、そういうものだ。

「現代の女性は皆それを着ています」
「どーせ脱がすんだから意味ねえだろ」
「いやいやランサー君?君はそれしか考えることないの?」
「あーでも、それはそれでそそられるかもなあ」

そういうとランサーはあろうことか下着をかなり真剣な面持ちで見始めた。そうして青が基調となっているチェックとフリルがついた下着をひょい、と取り上げあたしに合わせ片目を閉じる。

「おー、似合う似合う。お前青似合うんじゃねえか」
「自重しろランサー!」
「なあなあこれ買ってやるから夜に着て寝てくんねえ?夜這いに行ってやるよ」
「自害しろランサー!第一、そういうことはランサーが好みの人に言ってあげなさい。あたしなんか襲ってもなにも楽しくないよ」
「いや以外とお前下世話してく「あーあーキコエナーイ」

とりあえず恥ずかしい男から離れてアクセサリーやら髪留めが置いてあるところに避難する。色々と見ているとランサーは後ろから着いてきた。

「なんだよ、人が折角見繕ってやったのに」
「余計なお世話ですー。あ、それならこれ買ってよ」

そう言って可愛いけどシンプルな大きな花がついている髪留めを見せた。そして前髪をとめてみる。

「どうよ」
「おっ、可愛い可愛い」
「でしょー?買って買って!」

ランサーはしゃあねえなあとあたしの髪の毛をとめていた、これからあたしのものになる髪留めを優しい手付きで外す。そうして、それに口付けた。

「おまじない」
「なんの?」
「さぁってね。いつかわかんじゃねえの?」

そう言ってランサーはレジに向かって歩き出した。さて、一体なんの呪いをかけたのやら。

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