収まる砂埃。
そこに立っていたのは2つの影。
「ねーキャスター、本当にこれで良いの?」
「…………問題ないわ」
ふうん、と海南は自らの体を見る。特に変わったところはないらしい。
「海南!?」
名を呼ばれそちらを振り向く。振り向いて、笑いながら駆け寄った。
「帰ろ、士郎」
「は、?」
「キャスターもう街の人達から魔力採らないって」
同意を求めるようにキャスターの方を振り向けば肯定の返事が返ってくる。だから帰ろうと、士郎とアーチャーに言ったのだ。
「――、どういうことだ」
明らかな敵意を海南に向けアーチャーは睨む。けれども怯むことなどなく、嬉しそうに笑うのだ。
「キャスターと契約したの」
「!?」
「魔力だけを無償で提供するから、街の人達からは魔力吸い上げないでって。それ以外は好きにして良いからって、約束した!そしたらキャスター頷いてくれた!はいおしまい!セイバーも階段で闘ってるみたいだし、寒いから早く帰えろう!」
海南は急かすように階段へと歩き出す。早く、早く、と。
けれども名を呼ぶ声が聞こえ振り返った。振り返って、呼吸を止める。
目の前で起きた事態を理解するのに、数秒時間を要した。
理解して、一番始めに口からこぼれ出た言葉は「どうして」、と。
「オイオイどういうつもりだ。協力関係じゃあなかったのかよ」
「いやなに、キャスターに操られているのではないかと私なりの気遣いだったのだかね」
海南の目の前に居るのはランサー。その前にいるのは、アーチャー。海南の背を目掛けて斬りかかったアーチャーをランサーが受け止めたのだ。
「でけえ魔力感じたから何事かと思えば……大丈夫か、マスター」
「………」
信じれない、と海南はその目を見開く。その視線の先にはアーチャーしか映っていない。けれども彼も決して、武器を下ろしはしなかった。
「もう一度きくぞ、アーチャー。俺達は今協力関係にあるんだよなぁ?」
「ああ、そうだな。しかしキャスターに無償で魔力を供給するなど正気の沙汰ではないぞ」
「――だからって、殺すのか?」
二人の殺意は確かなものに。
「ああ、殺すさ。キャスターの供給源と貴様の供給源が途絶える。キャスターにおいては街の人間から吸いとる前に殺す。一石二鳥ではないか」
嘲笑うアーチャーのその台詞に、ランサーが踏み込もうとして、
「止めて、ランサー」
後ろにいた海南から静止の声が掛かる。
「…チッ、なんでだよ」
「良いよ、大丈夫。うんアーチャーは正しいかもしんないし、ランサーが守ってくれたからあたし怪我してないし、とにかく大丈夫だから。帰ろう」
「ほう。存外に利口なのではないか」
海南はにこりと笑う。
「―…、チッ」
ランサーは苛立たし気に舌打ちをして霊体化した。海南は表情ひとつ変えずに「アーチャーも凛が待ってるよ」と言って振り返り、出口に向かい歩き出した。
錯誤する関係