「ふん。とうに命はないと思ったが、存外にしぶといのだな」

山門から飛び降り、キャスターから士郎と海南を守るように二人の目の前に着地する。

「おまえ――なんで」
「なに、ただの通りがかりだ。あまり気にするな。……で、体はどうだ。貴様に絡んでいたキャスターの糸なら、今ので断った筈だがその小娘の肩を借りなければ立てぬのか?」

はっとしたように士郎は海南の腕の中から脱する。そして手を動かしたりとして、自らの体の自由を確認していた。

「動く。キャスターの呪縛は解けた、けど――」
「それは結構。あとは好きにしろ、と言いたいところだが――アレに殺されたくなければ、しばらくそこから動かぬ事だ。あまり考え無しに動くと」
「く、アーチャーですって……!?ええい、アサシンめ何をしていたの……!」
「そら、見ての通り八つ当たりを食らう事になる。女の激情というのは中々に御しがたい。……まったく、少しばかり手荒い事になりそうだ。……貴様はその小娘の相手でもしていろ」

そう言ってアーチャーはキャスターに向き直る。士郎は漸く、頭が冷え、海南の状態を確認できた。

「っ、海南済まない…!怖い思いさせちまったな…」
「ん、へいき、だよ」

へらりと笑う海南は余りにも"平気"などという状態ではなかった。キャスターの気に当てられ顔は真っ青になっている。それでも海南は笑って、自分たちを守ってくれた男の背をしっかりと眺めていた。



****



ランクA相当の大魔術。
それはまるで雨か何かのように、天上から降り注いでいた。けれども光の塊であるそれは、


「間抜け共……!貴様等、いつまでそこをに突っ立っている……!」


砂ぼこりやら塵やら破片やらが舞い散る中アーチャーは血相を変え士郎と海南の元へ突っ込んでくる。え、という声。それで漸く、気付いたのだ。そこは既に降り注ぐ光の攻撃範囲内。二人の頭上にすらそれは落ちてくる。

「クソッ、なんだってこんな手間を―――!」

突っ込んでくるアーチャー。避けようと士郎が横に跳ぼうとする。その体を片方の手で掴み、もう片方の手で海南の体を掴もうと手を伸ばした。


何かを怺えるように笑う少女。


伸びてきた腕を、"躱した"。動いた唇から音はきこえてこない。


へ ん な か お。


と、確かにアーチャーを見て笑いながら海南の唇はそう、動いていた。頭上から落ちる光弾を回避する為にアーチャーはその身を翻す。

「愚か者――!」
「!?海南ッ!!」

しんだ。間違えなく直撃した。
舞う砂ぼこりにより姿が確認出来ない。ただその瞬間に降り注ぐ光は、止んでいた。



****



何が起きたのか。
そんなもの、こちらが聞きたかった。

一人の少女の上に落ちた魔術攻撃は確かに直撃していた。ああ死んだかしら、とキャスターとてどうでも良さげで逃げ惑うアーチャーに狙いを定める。
しかし急激な魔力消費によりいつの間にか、というよりも宙に浮いていられなくなったのだ。だから境内に足を着いた。


「見っけた!」
「え?」


どん、という衝撃。
体を倒され両腕を拘束される。理解できない、とその人物を見上げれば先程"殺した"筈の人間が魔力を滲ませそこにいた。

「な、あな、た――!」

にんまりと笑う海南は先程硬直していた人物と同じとは思えない程に楽しそうで、何か良い事を思い付いたと言わんばかりに口元を歪ませている。




「ねえキャスター、あたしと取り引きしよう!」


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