まるでギルガメッシュから逃げるかのように海南は教会を出て行った。しかし本人は心底不思議そうな顔をして。
「……ギルガメッシュ」
「くっ、いやそう怒るでない綺礼。ヤツは周りに言わんよ」
何故出てきたのかと。
しかし彼は悪びれる様子などなくただ笑みを浮かべていた。
「それより綺礼、今の娘を手懐けておけ。まあ向こうから勝手に懐いておるようだが」
「…………」
「面白いモノだ」
クツクツとギルガメッシュは笑う。退屈はしなさそうだと。
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衛宮邸に帰るとセイバーだけが居た。
「あれ、ランサーは?」
「はい…?私はてっきり海南と出掛けているのかと思っていたのですが」
「そっか…。ま、いっけど」
なんかないかなーと冷蔵庫を漁る。んー、でも眠いし。
「海南」
「なあに?食べれそうなものならないよ」
「そうではなく、貴女が聖杯戦争に関わるというならもう少し緊張感を持つべきです。ランサーと共に行動することなど当たり前。彼は霊体化が出来るのですから、常に傍に置かなければ」
「あたし別にランサーの行動制限したくないんだよね。町にでて現代の娯楽で遊ぶのも良し。女の人口説くのも良し。甘味食べるのも良し。よっぽどの事がない限り好きにさせとくつもりだよ。せっかく今を生きてんだからさ、楽しまなきゃ損じゃん?」
「し、しかし…」
「それにセイバーだってなんとなあく解るでしょ?ランサーはそういう奴なんだって。本能的に遊ぶ楽しいことが好きな、ただの馬鹿」
あ、眠たい。
噛み殺すことなくあくびをしてセイバーに眠る旨を伝える。
さて、あたしはお喋りが過ぎるようだ。少しは気を付けなければ。
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去っていく海南の背を見送る。夜に備えて眠る、と彼女は言った。
それと同時に現れるランサー。
「……よろしいのですか」
「ああ、良いんだよ。あの嬢ちゃんは身を持って体験しなきゃわかんねえだろうし」
ぼりぼりと頭をかき回しながら湯を沸かす。どうやら茶を煎れるようだ。
「昨日だって夜中に屋根あがってくるしよ。結局寝たの3時過ぎ、しかも屋根の上でだぜ?全く、年頃の女っつう自覚あんのかって」
「ランサー、貴方は海南をどうするのですか」
その質問は予想外だったのか、ランサーは此方に視線を向ける。そうして沸いた湯を急須に注いだ。
「……どうも出来ねえんだよ。どういうモンかは判らんがアイツはこの聖杯戦争で“何か”を成し遂げたがってる。俺はソレに必要な“道具”って言ったところか」
「なにか、とは」
「だからわかんねえって。訊いたところで何も言わねえし」
まあ俺は死闘を尽くせればそれで構わねえがな、と言ってランサーは2つの湯呑みを持ってこちらにやって来る。その片方を差し出してにっ、と邪気の無い顔で笑った。
「まあ、んなこたぁどうでも良いだろ?茶にしようぜセイバー」
要らない存在