死ぬということに躊躇いはなかった。そう、躊躇いはなかったのだ。もしも死ぬようなことになっても生きたいと、生にしがみ付くことはないのだろう。そりゃあしたいことは沢山あるけれども、死ぬ間際で後悔するようなことではない。死ぬのだ、終わるのだ。楽しいことも悲しいことも辛いことも嬉しいことも良いことも悪いことも、全て、終わるのだ。ならばいいじゃないか。

魔術師としての一生だなんて本当にどうでもいい。母上が、父上が言うような立派な魔術師になんてならなくてもいい。ただ、折角生きているなら、楽しく生きていたかった。


「×××」


その名を呼べば彼は此方を見る。困ったように笑うその姿に昔の面影を探した。

「どうした、蛍」

あなたは誰と言いたくなるような口調。でも間違えなくそこにいるのは、彼なのだ。灰色に曇った空を見上げ息を吐く。視界にちらつくのは白くなった髪の毛、赤い外套に包んだ格好の彼。

「もうすぐ終わるよ」

わたしはわたしの終わりを素直に受け入れた。だから彼も、受け入れたのだと思う。

「君は」

世界を受け入れた筈の彼はわたしの世界を拒み続け生きていた。死を躊躇わない、それがわたしの概念であるといっても過言ではない。それを言えば本気で怒られたから「人の為に死ぬことを厭わない人に言われたくない」と言い返せば言葉を詰まらせていたが。ああ、懐かしい。最後まで彼はわたしの世界を拒んで、生かそうとしてくれていた。この世界で生きることを諦めている人間を。

「変わらなかったな」

けれども。

「そう?」

間違えなく、わたしは生きていた。何度も死にかけ、諦め、生かされ、生きた。「あー、死ぬんだ、へー」て終わる筈だった命は、助けられていた。


「ねえ」


知っていますか。

本当はわたしはもう死んでいたはずだったことを。わたしの世界は既に死んでいた。だからわたしはどこで生きればいいのか、フラフラ彷徨っていた。そうしていつの間にか、彼の世界へと足を踏み入れていた。


「生きていたかったよ」


生に固着はない。けれども、わたしがいなくなれば彼は一人ぼっちになってしまうのだろう。また、誰かのために罪を被るのだろう。誰かのために傷つくのだろう。誰かのにために。
そしてまたわたしも、いつの間にか誰かの為に傷ついていた。誰かの為に闘っていた。ううん、嘘。彼の為に闘った。彼のために生きた。彼の為に、生きていたかった。彼のために。



「だから、生きて。シロウ」



こうして、わたしの世界は終わるのだ。
結局は死ぬ。結局は終わる。けれども、


Did you have an eagerness for life with me?

  (きみは僕と生きたかったですか?)


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