嘘を見抜くのは、得意だ。
幼い頃から人の顔色ばかり気にしていたせいか、直接会話をしていればどこまでが触れていいラインなのか、どこまで調子に乗っていいのか、なんとなく分かるようになっていた。そして相手が嘘をついた時も、なんとなく、分かるようになっていた。
「ランサーの幸せってなあに」
港で釣りをしているランサーにそう問いを投げるとああん?と欠伸を噛み殺して眉を寄せる。ただなんとなくそう思っただけで、特に深い意味はなかったのだ。なかったのに。
「そうだなァ、強い相手と闘ってる時」
「そうじゃなくて、闘い系はなしで」
ランサーは首を傾げて、幸せねえ、と呟いた。ゾクリとあたしの背中に寒気が、なにかが走っていくのを感じた。血の気が引いていくような、そんな感じの。思わず海に視線を投げかけて、海水を見詰める。
「上手いもん食って、酒のんで、無駄な時間過ごすのが幸せってもんじゃねえの?」
にかっ、と。笑ったのだと思う。あたしはそれを見てはいないし、見れなかった。視線の先には緩く波立つ海しかない。
「そう、だね」
「今こうして、お前と無駄な時間過ごせてるのも幸せだ」
つん、と、鼻の奥が痛くなる。どうして、なんで。
幸せねえ、と呟いたランサーの瞳はどこか、遠くを見ていて。まるで昔を懐かしむかのような視線に、この男はもう死んでいるのだと妙に実感した。彼にも愛した、本当に愛した人たちがいたのだと。その人たちどどういう最期を迎えたかなんてあたしは知らない。ただ、彼にも、本当に生きていて、愛し合い笑いあった人たちがいたのだと。乱れる思考とは真逆に、心臓は落ち着いていて、けれども無償に泣きたくなって。どうしてだろう、どうしてなのだろうか。彼が言った幸せは、嘘ではない。嘘ではないし本当のことなのだろう。けれどもそれは、妥協した幸せなのではないのかと。
彼は生前に未練など、ないのだ。
ならばもう、あたしは。
「そっかー。じゃあ、いっぱい無駄な時間作んなきゃねー」
今"生きている"彼を幸せにしてあげるのが、精一杯にできる事なんだろう。ん、と微笑んだランサーの手元にある釣竿が、引いていた。