例え話をしようか。
もしわたしが普通の一般人だったのなら、こんな所には居なかっただろうしもっと普通な人生を送れていたのだろう。そんな詰まらない人生真っ平ごめんなのだが。
もしわたしが人間ではなかったのなら、……どうなんだろう。人に殺されるか、同類殺されるか。良くわからないがあまり良くない一生を送っていたに違いない。

とにもかくもわたしの今の生き方は我ながら最高だ。けれど問題点はちょっとコミュニケーション能力が低いことくらい。いや本当はめっちゃくちゃ高いんだけど、悲しいかな。わたしは人間を馬鹿にする事しか出来ない。


だから。
人間ではない彼がいとおしかった。





彼女は寂しい人だ。

初めて会った時はなんて皮肉に満ち溢れている人だろう、と思っていたがそれは違った。きっと普通に接していたいのに口から出るのは悪態ばかりで。人を信じたいのに人を貶して。そのくせ一人で構わないと思い始めている始末。けれどもそれは"人間"というカテゴリーに属しているもののみに当てられる感情だ。

「…蛍様」
「んー」
「お手を離して頂けないでしょうか」
「やだ」

要するに、彼女からして俺は"人間"というカテゴリーに属して居ないらしい。常にその小さな手で俺の手を握ってくる。故に、霊体化が出来ない。


「良いでしょう?ランサーはわたしの魔力で現界してるんだから」
「し、しかし…」
「それともオネガイシマスって頭下げなきゃ駄目なの?」


決してそう言うわけではないのだが、この行為はきっと彼女の為にはならない。確かに俺は今の時代を生きる"人間"ではない。だからこそ、俺を拠などにしてはいけないのだ。

「良いの」
「……」
「判ってる。ランサーがいつか消えちゃうこと。けど、けどね。だから良いの」

そう言って今までの彼女からは考えられない程優しい笑みを浮かべ頬を染めた。それは、今まで俺が見てきた恋をする乙女、ではなく何かに焦がれる女性の顔だった。だから美しくとも思ったし綺麗だとも思ったし、愛らしいとも思った。
彼女は俺の手を再度強く握りはにかむ。そうして、俺の頬に指を添えた。



「ねえランサー、恋人ごっこしましょう。貴方のおわりがくるまでの間遊びましょうか」



彼女は寂しい人だ。
その心は永遠に孤独のままなのだろう。だからこそ俺は頷いた。それでこの人が少しでも救われるのなら構わない、と。彼女はもう一度はにかむ。恋人なんてできたことないわ、と嬉しそうに。彼女の孤独に終止符を打つべく、唇を塞いでみた。こうしていればきっとソラウ様からの熱をもった視線からも耐えられる。だって形だけだとしても俺と彼女は、支え合えるのだから。







だから。

これは全て、俺の軽率な返事が招いた結果だった。彼女はどんなに酷いことをケイネス殿に言っていたとしても信頼はしていた。だから命をきいてサーヴァントに単身で挑むなど自殺行為だと本人だってわかっていた筈なのに。

「……っ、らん、さー」

血を流しながら彼女は笑う。貴方のおわりではなくわたしが先に終わったわね、と。

「…済まない」

魔力供給は既に別な場所から行われている。彼女が死ぬことなど決まっていたのだ。

「…どうして、あやまるの…?」

きっとあの時彼女の遊びに付き合わなければ、こんなことになどなっていなかったのだろう。でぃるむっど、と彼女は俺の名を呼ぶ。

「すき、よ」

精一杯に笑顔をつくって、彼女は人間を愛することなく、然れど幸せそうな表情でおわりを告げた。


めぐまれたおしまい


どうか、笑って最期を迎えられますように。




企画『多幸感』様へ提出
12.04.24.
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