明日になれば全てが0になる。それを知ってても尚1を大事にしようとするのは浅はかなことなのだろうか。
目の前で今後の事について笑い合う士郎たちを見て無償に泣きたくなった。
微笑ましいくらいに残酷で、何時かは来るだろう未来のことについて笑い合っている。
「明日はデパートにでも買い物に行くか」
良いですね、と賛同する人達。今は来る筈の無い五日目を楽しみにする。
「蛍も行くだろ?」
全く会話に入ってなかったので行き成り話を振られ驚いたが、軽く笑って「行くに決まってるじゃん」と決して守られない約束をした。
どうせ忘れられる約束を態々取り付け会話に参加する、何と滑稽なのだろうか。
「あー、ごめん。そろそろランサーんトコ行って来るわ」
せめて一分でも、一秒でも多く自分の愛するヒトの所に在ろうと決めていたから、席を立った。
きっと何時もの場所にでもいるのだろう、今日はどっかの誰かさん達に自分の楽園を侵食されただとか泣き言を言われるか、或るいはまだいるかも知れないお馬鹿さん達を想像して頬を緩ませた。
何度見てもそれは酷く愉快な光景でとても気に入っている。
けれどそれも何時しか見ることが出来なくなり言葉を交えることすら出来なくなると分かっていても、否、分かっているからこそ酷く執着した。
「んー、やっぱ駄目だなあ」
こう考える事は自分の性に合わない。
どうにも宜しい方向に考えが進まないのだ。今を精一杯楽しめば、楽しもうとすれば、この四日間が幸せならば―――
「ランサー」
辛気臭いことは忘れよう。
どうせ明日になればみんな忘れてるんだ(それが気に食わないのに)
考えれば考える程無駄。
いつか来るで在ろう時、その為にあたしは 。
「おう」
「調子はどう?釣れてる?どっかの誰かさんたちに邪魔されなかった?」
厭味を交えて言うがたいした意味もなくぼちぼちだなだなんて、生意気な。
「…生意気な」
むっとすると何に怒ったのか、とランサーは言いたげにあたしの方を向く。
すると言いたいことを分かってくれたのかは知らないけどその重たそうな釣竿を片手で持つというマッチョ振りを発揮してくれた。
「わぁってるよ、」
嗚呼、ムカツク。
頭をくしゃくしゃにされて、嬉しいけれど、ソレは飼い主が犬にしてあげるもんでしょうが。
だから両手でその頬を掴んでこっちだけを見えるようにした。
「精一杯愛でてあげる。私の槍があたしより先に消えるなんて許さない。あたしが消える時がランサーの消える時。他の誰かに遷るってんならあたしは令呪を使ってあたしを殺させる。後は、自由にしてくれて良い」
ああなんて醜い。
けれどどうせ忘れてしまうのだ、構いやしない。
否、例えその言葉が記憶に残ってても構わない。
いつか来る五日目が来てもあたしは同じことを口にしよう。
「ん」
唇を唇で塞いで必要の無い魔力供給をする。愛だとかそんなもんじゃない、ただの行為。
「絶対誰にも渡さない」
「今日は随分だな」
苦笑いを零すランサーにもう一度噛み付いた。
なんだか今日のあたしは変かも知れない。それとも、もう時期なのだろうか。
「…あたしはただの人間だ。魔術も闘い方も知らない。それでも何があっても、何が立ち塞がっても傍を離れない」
略一方的に話してるだけ。
どうせ今日が終われば忘れてしまうのだから何を言ったって、
「…独り言だから」
腰辺りに抱きついて呟く。かったい筋肉に顔面を押し付けた。
人の体温、温かい、ランサーの体温。これが他の誰かのモノになるなんて、絶対に。
「…はあ、辛気臭い」
んー、と此処が外とか気にしない。
どうせ人気の無い港だ。
とにかく離れないように、感じられるように、ランサーにくっついた。
「ランサー、」
「あん?」
「あたしが、守る から」
あたしじゃ何もできないけど。
それでも気持ちだけ。
「逆だろうが、ばーかっ」
くしゃくしゃと髪を乱されながら目を閉じた。
歪な関係。
恋人友人だとかそんなモン全部ぶっ飛ばした"主従関係"。
それで満足している(満足させている)
これ以上はない、これ以上は望めない。
いつか消えるのだから。分かっているのだから。
「 あ てる 」
届かない声で囁いて眠りについた。