「いーやーだー!」
「はーなーれーろー!!」



どうしてこうなった。

台所に立つアーチャーの背中にくっつく海南。その背中を引っ張るランサー。端から見なくともてんで可笑しな光景である。バゼットはおろおろとなす術なく立っていた。


遡ること数時間前。
思ったことは即実行、アーチャーにタックルをかますという目的を持った海南はなんとなくアーチャーが居そうなところを歩いていると見事、商店街でアーチャーを発見することに成功した。
その姿を確認するなり正面から猛アタックを決めた海南だったが、アーチャーはバランスを多少崩すだけで倒れずに受け止めてしまったのだ。あまりにもつまらなすぎた結末に海南はぶーぶー文句を垂れながら「ご飯!」と突拍子の無いことを言い出す始末。アーチャーは色々とめんどくさくなり衛宮邸へと足を運んだのだった。



そして今から数十分前。
帰宅したランサーとバゼットが見たのは律儀にエプロンをつけ、台所で料理をする褐色の男と、その背中にべったりと張り付く少女の姿。何かが変だ。

ランサーはその男を毛嫌っているからその光景が気に食わなかったのだが。


そして今に至る。



「アーチャーがご飯作ってくれんの!」
「だからってなんでくっついてんだよ!明らか邪魔だろうが!!」
「関係ないじゃん!ばーかばーか!」


小学生並みの悪態をつきながらがっちりとアーチャーの腰に腕を回す海南。一番の被害者である筈のアーチャーは我関せずと料理を続けていた。それもまた異様である。


「てんめ…!!」


青筋を浮かべ今にも宝具を出しかねない勢いで憤るランサー。まあ彼の場合常識というものを弁えている(はず)のでそのようなことはしないが。

「…!変態!セクハラ反対!!」
「おー、なら大人しくしやがれよ?」
「く、くすぐったい…、!」

服の中に手を突っ込み腹を撫であげるランサーに、海南は悲鳴に似た奇声をあげる。ぎゃー!!と一際でかい声をあげたとき、視界が赤く染まった。


「「は?」」


海南の声とランサーの声が重なる。ダンッ、と叩き付けられるように床に倒れ引き摺られた。


「……フィッシュ」


「……はあ!?これ男専用じゃん!何で!?」
「うががっ、がっ!」


二人に巻き付いた赤い聖骸布はギリギリと二人を締め上げる。ランサーに至っては顔面を巻き付けられ、息をすることすらままならない状態だ。

「全く、仲が宜しいのね」
「カレン!早く離せ!てかなんであたしも締め付けられてんの!?」
「うががっう゛うう゛!!」
「あら、犬の声が聞こえるわ」

ばたばたと床に転がった状態のまま暴れる二人組はなんと滑稽な姿だろうか。それをうっとりと眺める修道女。
カレンの礼装である聖骸布は男性専用であるのだが、海南がランサーの締め付けに巻き込まれてしまっている状態なのだ。そんなこと知らず自分から男の匂いがしたからだと勝手に思い込み騒ぎたてる。


「あたしおーんーなー!!」


その時、バリッと音がして開けた視界。自由になったは良いが騒ぎ過ぎたか、立つ気力も乱れた髪を直す気力も無さげに二人は重なった状態で床に転がったまま肩で呼吸を繰り返す。

「かれん…!」
「……げほっ!あ゛ー、は、ぁはあ……死ぬかと思ったぜ……」
「だ、大丈夫ですか?」

助けてくれたのはバゼットらしい。先に動いたのはランサーで、軽く上体を起こしカレンをキッと睨み付ける。しかしカレンは両手を合わせ眉を下げ神に祈っていた。
腹に乗っている海南の頭をランサーは掌で撫で、乱れた髪を整えてやる。
海南も体をゆっくり起こし、自身を引き摺りながら居間のテーブルに突っ伏した。

「あっつい…!」

うっすら汗を浮かべ「もうやだ」と呟き静かになる。何時もなら仕返しに掛かるのだが、そんな気力すら削がれたらしい。
後ろから抱き着いてきたランサーと「あっつい」「お前が悪い」「……そう」などと言い合い二人して拗ねたように大人しく黙った。


「……アーチャーまだー」
「あと少しだ」



…あんな騒動の中でも料理を遂行していたアーチャーは流石と言うべきなのだろうか。
ランサーのマスターはちょっぴり悔しそうな顔をしてて、それを嬉しそうに見る修道女。そんなカオスな夕方。

執着心には気付いてる
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