ゆらりと揺れる瞳に綺礼は息を呑んだ。今、この少女を壊すことがどれだけ容易なことか。

「ん、帰る。邪魔したね」
「……ああ」

また来ると良い、そんな事を言って教会から去る背中を見送る。来たときに言っていた事すら果たさず、平静を保った振りをしながら幸せそうに笑う少女を。


「アレも一種の病よ」


いつの間に居たのか、ギルガメッシュは少女が去ったと同時に語り始めた。その口調は何時もより浮かれている。

「ただひたすらに人の幸福を望み足掻くだけならばセイバーのマスターとなんら変わりない。しかし、アレはそれに似て非なるもの。あの狗を飼うことで保たれていた精神がいつ破壊するやら」
「ランサーのマスター権を譲ったらしいな」
「ああ。今のあやつの精神は木の枝にも満たない軟弱なものよ。故に、いつアレが出てくるか我でも分からぬ」
「……困ったものだ。令呪が無ければ予兆を感じとるものも居ない。―――…死ぬぞ」

クツクツ笑うギルガメッシュはただ一言、「それも悪くはない」そう言って消えたのだった。


「…どうせ駄々を捏ねる、か」


一人残された綺礼はこの状況は長続きなどしないと、あの少女のことを考えるのであった。




衛宮邸は今日も至って平穏である。

昨日、ランサーと共に帰ってきた海南を出迎えたのは温かい食事。何時もより二人ほど多い食卓はまたいっそう賑やかなものとなった。
そして食後、バゼットがまたランサーのマスター権の話をしだしたのだ。海南はそれに対し今回はひっきりなしに否定するのではなく、ランサーに話を振った。

「別に、令呪なんてどうでも良いんじゃね?」

そう言ったランサーに海南は、一瞬固まり、そして「わかった」と満面の笑みで言ってみせたのだ。
その瞬間、バゼットの右の甲に現れる令呪。海南は笑顔を消し、明らかに拗ねた表情で立ち上がり居間を去った。その背中を慌てて追うランサー。その後ランサーのことを総無視して睡眠を始めてしまった彼女の布団の中にランサーは無断で潜り込み、共に睡眠を始めたのだ。


朝になると海南は至って普通に過ごした。特に機嫌が悪い訳でもなく、バゼットに対してもランサーに対しても、普通に接したのだ。
その姿は何時も通りだったが、確かに異様だった。



「え、上がった?」

思わず素になってしまい敬語を忘れる。目の前にいるウェイターさんは頷き、あたしに話をしてくれた。

「はい。赤髪の背の高いお姉さんが来て」
「……そう、ですか」

分かりましたと言って軽く頭を下げる。そっかあ、バゼット来てたんだ。まさかバイト辞めたりしないよね?折角の飲み会の機会が無くなってしまう。
とぼとぼ一人で歩きながら色々と考え事をする。それは今後のことだったり、昔のことだったり。色々だ。
歩いていると見えた二人組。片方はあたしが迎えに行った人物であり、もう片方は、バゼット。随分と視線を集める二人だ。
ちょっと声でも掛けてやろうかと思ったが、止めた。

(しあわせそうで、なにより)

ニヤケる顔を我慢しながら二人とは全く別の方向へと歩きだす。ああやっぱりあたしって自分虐めるの大好きなんだなあ。とりあえず、アーチャーにタックルでもかますか。


嘘を吐いた幸せを
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