【three day】


決して目覚めの良い起き方ではなかった。

起きた理由は暑苦しかったから。射し込む光は熱を帯びあたしの体温と部屋の温度を上昇させていく。べっとりと背中に張り付く汗が気持ち悪い。すっかり自分と同じ温度になってしまったシーツを足で蹴飛ばし冷たいところを探して身を捩れば耳元で苦しそうな声が聞こえた。
更にぎゅうと後ろから腹辺りを強く抱かれぴったりと肌に張り付いている服の上からまた暑い何かが密着する。暑い。暑い、暑い…。
暑さの所為ですっかり目が覚めてしまったので抱き付いてきた腕を離して布団から体を起こす。あたしを抱いていた人物を見るとそれもまた暑苦しそうな顔で汗を浮かべていた。
顔に引っ付いている髪を手で退かしてあげ、汗を拭ってあげる。

「ランサー、起きろー」

ぺちぺちと額を叩くと顔を顰めゆっくりと目を開けた。「おはよう」と言ったら「ん」と短い返事が返ってくる。このくそ暑いのに二人で一緒に寝るからお互い汗だらけだ。


てか、何で一緒に寝てたんだっけ。


昨日ランサーと一緒に帰ってきてご飯食べて、……んー、まあいっか。
頭をぐしぐしして無言で立ち上がった。うん、シャワー入る。気持ち悪い。

なんとなく気だるい体を引き摺って浴室に向かった。




シャワーを浴びて気持ち悪さは拭えないまま部屋に戻るとランサーはまだゴロゴロしていた。冷たいところを探して忙しなく四肢を動かしている。

「ランサーバイトは?」
「………にじ…………」

相当ダルいのか、此方を見向きもしない。解けている長い後ろ髪を掴んでランサーの上に跨がった。

「起きないの」
「……と…ちょっと……」
「…はあ、わかった」

あたしが上に乗っかってるのに苦しくないのだろうか。気にする様子なく未だに微睡んでいる。そんなランサーを見下ろして愉悦に浸っていると(いつも見下ろされてばっかだからさ)襖の向こうから名前を呼ばれた。

「海南、まだ寝ているのですか」

その声の主はカレン・オルテンシア。姿の見えない相手を見やる。

「んーん、ランサーといちゃいちゃ中」

そう言うや否や開かれる襖。カレンの目にこの状況は一体どう見えたのだろうか。
何か嫌味や冷やかしを言われるかと思ったが、カレンはただ数秒間あたしを見て何も言わずに襖を閉めた。いやせめてなんか言えよ。





「……、莫迦なひと」



向こう側から聞こえた声は聞こえない振りをして、歪む世界を自分の手で綺麗にした。

抜け出した世界は止まらない
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