【seven day】
今にも夢の世界に旅立ちたい気持ちを抑えて、寄り添う。冷たいシーツが素肌を滑り少しばかり寒くなったが目の前の肌色に抱かれそんなことはどうでもよくなったようだ。
「寝ても良いぞ」
首から後ろに手を回し、後ろに垂れている青い髪を弄りながらなんとか意識を保つものの目蓋が重たい、身体がダルい。
「……らん、さぁ」
「んー」
この男はまだ余裕そうな態度で海南の肩を抱いて体温を分けあってお互いを確認しあって。
海南は特に意味もなく呼んだらしい。そのまま微睡み始めた。
「あ、そうだ海南」
「……ん」
「バイト代も大分貯まったし、言峰の野郎に言ってアパートの一室でも借りようぜ」
「…………ん」
「アイツに借りつくんのは癪に障るが、まあ仕方ねえだろ。俺達じゃ色々面倒なことになるからよ」
「………うん?」
ランサーは楽しそうに「お前も俺と同じところに働くか?その方が色々便利だし、あー、あと寝る部屋は一緒なー」などと一人で話している。
「……らんさぁ?」
「あ?なんだ?飯は一緒に食うぞ」
「……なんで」
一緒に住むの、と小さく呟けば暫し沈黙が漂う。今の彼女はこの生活に不満など抱いていない、寧ろ申し訳なく思っている程だ。だから、こんな良い環境を手放す理由が今一つ分からなかったのだ。あの神父に借りを作ってまで、やらなければならないことなのだろうか。
「……嫌か」
ぽつり、頭上から聞こえた声は少し拗ねたように寂しげで、海南は顔をあげる。その姿は捨てられた犬のようだと、素直に思った。そんな顔をされたら、と。
「……嫌じゃないけ、ど」
「…じゃあなんだよ。俺はお前の魔力が尽きることがなければぜってえ消えないぞ」
「……だって、…ランサー、不満?」
「まさか。今の生活に不満なんざねぇよ。寧ろ満足すぎるほどだ」
「じゃあ、なんで」
核をついても中々理由を話さないランサーに海南は瞼を閉じる。限界は近い。
「一緒に過ごしたいってだけじゃ、駄目なのか」
「……いっしょだよ」
「…………、そうじゃねえ」
「んん…じぁなに…」
段々と声に苛立ちを混ぜながらもう明日でいいんじゃないか、と思い始める。
第一「何故」と聞いているのだ。「そうしたい」か「したくない」かではない、理由を意味を聞いているのだ。はっきりとしない、この男らしからぬその言動を疑う脳ミソを今の彼女は持ち合わせてはいない。ただ早く言えと思うばかりだ。
「……もう、良いだろ」
「なにが」
「俺たちはずっとずっと遠回りばっかしてきたんだ、だから」
もう、良いだろ、と。
「海南」
「……ランサー、それは」
ずっと遠回りをしてきた。
けれどもそれは二人の暗黙の了解であった。言ってはいけない、口にしてはいけない。だってお互いが、交わっては、出会ってはいけない筈の人物であったから。愛しあうなど、不可能だと。勝手に肯定していた。
「恋人ごっこも、お遊びももう辞めだ。今回のことでよーく分かった。俺はお前が居なきゃ気が狂いそうになるし、お前は俺が居なけりゃ死んじまう」
「わかんないよ」
「うっせえ。だから遊びは辞めた」
ぐるりと回る世界。
目を開けばランサーが目の前にいて、その真剣な眼差しに焼かれる。
「俺と生きろ、海南。俺だけを見ろ」
「…」
「愛してる。絶対に離したくねえ」
ゆらゆらと揺れる瞳。
「ランサー、まっか」
「………お前は」
顔を、耳を真っ赤にしてランサーは眉を下げる。困っているような、喜んでるような。
「すぐに泣くな」
「ランサーの前だけだよ」
「そうかよ」
「うん、そう」
目尻に唇を落として舌を這わせて。ぴくりと跳ねる肩を優しい手つきで抑えつけた。
「ランサー、あのね」
「おう」
「あたし馬鹿だよ」
「んなこと会った時から知ってるって」
「かわいくないよ」
「可愛い」
「真っ直ぐ、あい、せない、よ」
「ああ、構わねえ」
「いつきえちゃうか、わかんないんだよ」
震える声で言ったその言葉は、どれほど彼女を苦しめたのだろうか。
「そん時はそん時だ。俺がお前を迎えに行ってやる」
本気だった。
だから、本当は。
出会う前から好きだったのだと。
こんな馬鹿みたいな話、あるのか。彼女は自嘲気味に笑う。夢を見ているのならば醒めるなと強く願う。
「 」
小さく何かを言って、ランサーの背中に手を回し胸板を寄せ顔を埋めた。けれどもその耳は真っ赤に染まっている。
そんな姿を見て、ランサーは笑い海南を抱き締め返した。
「あーあ、俺たちって餓鬼だな」
「……そうだね」
「類は友を呼ぶって奴か」
クツクツ笑いながら自分の胸板に顔を押し付ける彼女の耳元にそっと、口を近づけた。
「愛してる。俺は海南から永遠に離れないと、クーフーリンの名の元に誓おう」
醒めない夢を誓って