「っんな事させっかよ…!」

ギリギリと海南を強く抱きしめる。それだけで感じられるのは彼女の魔力。汗を浮かべ熱に犯されている原因は間違えなく魔力の膨張によるものだろう。彼女が自らそれを発散させる方法は、ない。だから方法は一つだ。


「喩え貴様と海南が交わり、魔力を放出したとしよう。だがそれでどうした?コイツの中を蝕んでいるものを抑制できるのはコイツ自身だ」
「――…ッ」


「ふ、はははっ!!愚かだな、実に愚かだ!令呪を渡しさえしなければ早々に気付くことが出来たであろうに!自らを犠牲にしてまで我を笑わせるとは!……褒めて遣わすぞ、海南―…!」




だから。


令呪を渡すきっかけになったのは。令呪を渡した理由は。彼女が死ななければならないのは。それでも笑っていたのは。


「なあ、魔術師よ」
「――ぁ」
「知っておるか?死に損なったお前を、誰が助けたか。まああの女も此方に来てからお前の面倒を見てたらしいが」


全てを助けたいと。自分は不要だと。本来居てはならないと。自分を犠牲にしても。偽善者だといわれようとも。自分が辛くとも。傷を負おうとも。必死で、



「片腕無くした人間の看病は、庶民である海南には堪えたろうに」



自分を救った人間を。
自分が殺す。



初めて彼女と会ったとき、驚くほど優しい顔をしていた。それと同時に泣きそうな顔をしていた。その理由は分からない。彼女はそれを語らず、ただあの槍兵を見つめていた。



「あ、ぁ――…」

その意味を理解した瞬間、欠落していた部品が当てはまった。全てを理解し、立ち竦む。指定封印の執行者として生きてきた彼女を助けることなど、今まで誰がしただろう。
何故バゼットは生きているか。何故、生かしたのか。そんなのは決まっている。バゼットは生きなければならないから。
ランサーを遣い聖杯戦争を生き延びたのは海南だ。だから、「自分が召喚したからランサーを返してほしい」などと、受け入れられてはいけない筈だったのに。




ただ、幸せでいてほしかった。




「■■■■■━━!!!」



声にならない咆哮が聞こえた。それ以上は話すなと言わんばかりに、黒い何かがギルガメッシュに襲いかかる。


「ほう、死にかけの分際で我に逆らうか」
「━━,━━,,!!!」
「ば、落ち着け海南!!」

頬を紅潮させ、汗をしたらせ。ただその目は血に餓えた獣を連想させるほど、鋭い。


「…悪いがギルガメッシュ、俺はコイツを死なせる気はねぇ」


自らの胸板に海南の顔を押し付け、抱える。
海南は荒い息遣いで、抵抗した。それでも離さない。


「ほう、やってみるが良い。我とて海南が足掻く様を見ているのは悪くはない」
「チッ、良く言うぜ」


踵を返し、後ろにいたバゼットと目が合う。



「――悪ィな、俺はコイツと居る方が良いみてぇだ」



横切る瞬間に言われた言葉に、バゼットは聞こえない声で「分かってました」と、呟いた。


喚く事なら誰でも出来る?
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -