【six day】


「海南ッ!!」




その声は怒気を含んでいたので呼ばれた本人は肩をびくりと震わせ、ぱちくりと目を見開く。

「お前何で言わないんだよ!」
「な、なにがですか士郎君」
「昨日の夜のことだ!」
「……な、ナンダッテー」

誰から聞いたんだと聞けばメディアから聞いたそうな。小次郎のやつチクりやがったな。

「黒い獣に追い掛けられたって、」

その言葉に反応したのは三人。どくりどくりと脈打つ心臓。

「女の子が深夜に一人で出掛けたこともそうだが、何で言わなかったんだよ!」
「むー…」

むくれた顔でそっぽを向く。あたしは知りません。いや知ってるけど。





「――海南」


びっくりするくらい冷たい声がきこえた。そんな声、聞いたことない。

「お前、ふざけてんのか」

怒ってる。ランサーが、怒ってる。なんというか、本気で怒ってた。周りの温度も下がっているような気がする。
半年以上一緒に居て、初めて、見た姿。それはあたしに対する、怒り。


どろりどろりと、溜まっていく。


「なんで何も言わなかった」
「……ぅ………」
「……ランサー、何もそこまで責め立てることも「セイバーは黙ってろ」……」

視線を合わせることすらままならない。セイバーが口を開いてから誰一人として、話さない。冷や汗ばかりが滲み出る。


「…オイ、言わなきゃ分かんねぇだろうが」


怖い。

悪いのは確かにあたしだ。でもたった一度きり、深夜に出歩いて、アレに会って、どうしてここまで責められなければならない?そうだ、それにランサーには関係のない話じゃないか。だって、今の彼に、魔力供給もしてないあたしは、必要が





ごぽり、と。
遂に、溢れだした。





「―――…ぁ、っ!」


何よりも誰よりもいち早く異常をきたしたのは、カレンだった。その腕から、血が流れ出す。

続いて動き出したのは海南。立ち上がり、走り出す。カレンからできるだけ離れるようにと。近づかないようにと。


「海南!」
「ぅ、あっ…あ、…!」


縺れる足を懸命に動かすも、万全なランサーから逃げ切れる訳もなく捕まった瞬間に膝から崩れ落ちる。もう、限界なんだと言わんばかりに。


「――…おま、え」
「はぁ、ぅ、あっ……ッ!」


心臓を掴むように、皮膚に爪が食い込むことを気にすることもなくただ苦しそうに喘ぐ。その姿は、一度だけ見たことがあった。



「当然の結果だな」



いつの間に居たのだろうか、二人の目の前に立つ金色。



「海南があの中身を飲み干せたとでも思ったか?莫迦め、この様な小娘にこの世全ての悪など背負える筈がなかろう」
「どういう、ことだ」






――あの時。

溢れだしそうな泥を、それを、全て背負ったのは。





「こやつはただ、アレを自身の中で抑制していただけよ」





「――…あたしの勝ちだよ、」


ただ笑っていた。世界が始まったんだと言わんばかりに彼女は嗤っていた。ただ、嬉しそうに、笑っていた。守ったんだと。何一つ犠牲にしてはいないんだと。






「どうやってアレを抑制していたのか知っているか?まあ検討もつかんだろうな。恐らくコイツ自身分かっていなかっただろう」


「ただ守りたかったのだ。自分が愛でる者を。それだけがコイツの理性を繋ぎ止めた。だが、今のコイツにはそれが居ない。自分が不必要だと、そう己惚れた。理性を繋ぐ鎖は解き放たれた」


「ならばどうなるかは分かるな?光の御子よ」




ギルガメッシュは、世界でイチバン優しい笑みで、現実を突き刺した。





「 死ぬぞ 」




赦されないと道化は嗤う
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