【five day】


月明かりに照され辛うじて見える時計の針は2時を指している。なのに睡魔がやってくる気配など微塵もなく、時間だけが過ぎていく。
暇なので思い付いた、そうだコンビニに行こう。24時間営業の素晴らしきお店。深夜に行くというちょっぴり非道徳的な行為に頬を綻ばせ、着替える。着替えるといっても半袖のパーカーを羽織だけなのだが。誰にも気付かれないように家を抜け出し、誰も居ない街灯に照された道を歩く。やっぱり静かで、あたし一人だけが世界に居るような気させした。

だがやはりそんな事はなく、酔っぱらいやお姉さんという人達をぼちぼち見掛けたし、コンビニに行けばやる気無さげな店員さんも居た。






だから、この世界は正常な筈だった。





購入し、ストローで飲んでいたのむヨーグルトが音をたて落下する。公園の中心にいる黒い、ソレ。あり得ない、あり得てはならない。だって、あの四日間は、もう、


ゆるゆると動く黒い獣は、あたしを見付けて嗤ったような気がした。


――やばい。
落ちたプラスチックを拾う間もなく走りだした。例えアレがなんだろうがあたしが太刀打ち出来る術はない。
「夜中は出歩かない」「教会には近づかない」「ランサーの傍を離れない」その3つを守り一度も死なずに四日間を過ごした。どんなにアレが弱いと言われようとも、普通の人間であるあたしにとっては凶器だ。
何より、あの四日間で一度も死ないように徹底したのにはちゃんとした理由がある。今居る「絶対にあり得ない世界」を創ったのは間違えなく、あたし。どの平行世界でも「言峰綺礼は生存しない」という事実を無理矢理ねじ曲げたのだ。この「他の世界には存在しない登場人物」の介入によって。つまり、この世界にしか居ない人物が死ねば、その人物は違う世界に現れることはない。この世界でしか、生きられない。


まあ、全部勝手な想像だけど。


どちらにせよ、この日常で殺されてしまったら意味がない!





目指す場所は決まっている。
追いかけては来ているのだろう、振り返りはしない。ただ走る、走る、走る。このまま真っ直ぐ行けば家に着く、があたしは曲がった。
そのまま真っ直ぐ走り、見えてきた長い階段を一段、二段飛ばしで昇っていく。この時点で息はあがっているし、膝はガクガクだ。けれども足を止める事は許されない。見えてきたゴール地点に、あたしは最後の気力を振り絞って足に力を入れ、転がり込んだ。


「――こんな夜中に何事かと思えば」



後ろでスー、と鳴る音が聞こえた。次の瞬間には空気を切る音。あたしはそれを見る余裕などなく、無様に地に伏せ息をしていた。

「…何故だ」
「は、はぁっ、……っん、知らない……!」

はぁはぁと呼吸を繰り返す。喉は鉄の味がして、膝は震えていた。



とりあえず、話せる程度に回復したところで漸く体を起こし、胡座をかく。暑いので半袖のパーカーを脱いだ。

「ねえ小次郎、やっぱりアレって……アレ?」
「恐らくな。…しかし、あり得んぞ、そんなこと」
「……」

そうだ、あり得ない。
アンリマユは還った。還った、はず。なのに、



「―――あ」





そういや、居たな。悪魔。

廻らない現実
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