思い出せるのは処々。

心の中を陣取り渦巻く感情はまるで何かを奪い取られたかのような虚無感。何故か腹が立った。腹が減ると人はイラつくという。それに、似ている。
一気に詰め込まれたのは膨大な知識。最後に響いた三つは単語は聞いたことも無いような言葉。

『聖杯戦争』『聖杯を』『求めよ』

一体何の為に、浮き上がった疑問は口にすること等無く、ましてやその答えを導き出す声も聞こえずに引き寄せられるように、浮上した、世界。言わなければならないという台詞が自然と口から出る。


「―――問おう」
「―――問いましょう」


隣から凛と美しい声が聞こえた。そんな事を気にしている暇等なく、嫌悪感剥き出しで言葉の続きを綴る。


「貴様が余のような騎士を招いた愚か者だろうか」
「貴女がワタクシを招き必要とせん者でしょうか」


開けた視界に居たのはたった一人の娘。
大した興味も無さげに、娘は呟いた。

「あ、片方失敗した」

何の事だ、召還とやらに失敗したというのか?ぼんやりそんな事を思い隣を見ればこの世の人間とは思えない程美しい、彫刻を思わせる整った顔があり思わず息を呑む。その銀髪の長髪と輝かしい布を首に掛け風に靡かせ微笑していた。一体この状況のどこに微笑する要素などあるのだというのか、何も無かろうに。
痛い程の視線の中にひとつだけねったりと、絡みつくような視線に嫌気が差す。そちらを向くと黄金の鎧を身に纏った私と同じモノが見下ろしていた。

嗚呼、イラつく。

一体なんだというのだ。貴様にそのような視線を送られる筋合いなど、無い。

「なんだ、小娘」

先に口を開いたのは男。私は其方に向き直って男を見上げた。

「此方の台詞だ。何だ先程からジロジロと人を品定めするような目で見て、不躾にも程がある」
「…なん、だと?」

その言葉に怒ったのか、男は肩を震わせる。

「貴様、誰に物言いしておるか分かっているのだろうな…!」
「余は貴様の様な無礼者なんて知らん」

きっぱりと真実を言い放つと男が発光しだした。否、正確には、男の後ろの空間だ。

「良いだろう…せめて美しく散って見せるが良い!」

後ろの空間から眩い黄金の光と共に剣や斧などといった様々な武器が空間を引き裂き現れる。なんてデタラメな。その一つ一つから感じるものは凄まじい、力。それを戦闘の意と受け取り、私も武器を取り出した。
手に力を籠めれば現れる生死を共にしてきた、世界でたった一つの、私の相棒。不思議なものだと思いながらも光で成された相棒を力強く握り、構えた。

「は。良いだろう、貴様の様な躾のなっていない者にはこの余が直々に躾けてやろう。剣を持て、男」
「笑わせるな、この雑種風情が!」

あろう事か、その男は剣を持つでもなく、そのまま直接飛び出るように武器を投げてきた。地面を蹴り、己の武器でそれらを弾く。なんの苦にもならん行為。
そのままその男に向かって剣を振りかざせば――、


「御止めなさいな、野蛮な」


ピタリと動かなくなる体。
つま先から頭の天辺まで、己のものではないような気すらした。それと浮き上がるのは疑問。何故、落ちない。

振りかざした剣も、
跳躍した体も、

まるで私も周りだけ時が止まっているかのように、固まっていた。原因であろう女を見ようにも体が動かない。せめて視界に捕らえようにも、完全に死角にいるのだ。

「――っ、女」
「御止めなさい。貴女の相手はその方では無くてよ」

目の前にいる男も同じなのか、苦渋の表情を浮かべ固まっていた。ただただ今はソイツを睨みつける。
が、次の瞬間、私の意志とは全く関係なく、時が、動いた。しかもあらぬ方向に投げ飛ばされ受身すらうまく行えない。次に来るであろう衝撃に備え目を強く閉じた。


「エムレン、?」


聞こえた声は錯覚か。

想像していた衝撃とは全く別の、抱擁されるかのような衝撃。思わず目を開けると、影が私を見ていた。

「エムレン、なのか」

私は、
飽きぬ夢の続きを見ているのだろうか。


「――ディルムッド、さま」


そんなことは、あってはならないと。
こんな運命の廻りあわせなど、あっては、ならない。

無意識に伸ばした指先でその存在を確かめるように顔の輪郭を撫でる。なぜ、なぜ、なぜなのですか。抑えきれない感情が、溢れ出し、思い出すのは、グラニアさまと、ディルムッドさまと、フィンさまと、そしてそして、そして。

それと―――、


「感動の再開のところ、申し訳ないのですけれど」


不意に聞こえた鈴の声で我に返る。
それと同時に現れるのは、黒い影。


「差し詰め、招かざるお客様というところかしら」


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