「我を差し置いて王と称する不埒者が、一夜のうちに二匹も沸くとはな」


その姿を見たことがあるのか、ウェイバーは息を呑み声を潜める。少女は相変わらず笑っていた。

「難癖つけられたところでなぁ……イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」
「たわけ。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。あとは有象無象の雑種にすぎん」

「――揃いましたねえ」

その瞳の先には、黄金に輝く第四の英霊を見据えて、少女は笑う。その視線に気付いたのか、黄金の英霊はその視線を酷く不快に思ったのだろう、眉間に皺を寄せる。

「小娘…」
「ふふ、ねえ王様、このわたしに少し、時間を与えて下さいませんか」
「…」
「いえいえ、道化師の戯れで御座います。これから始まる戦いの余興とでもいきましょうか」

少女は自分が乗っていたライダーの戦車から飛び降り、一際声を張り上げた。

「それでは始めましょう!」

少女は手馴れた手付きで宙を切る。すると現れるのは四枚のカード。

「まあ、イレギュラーはイレギュラーらしく」
「ちょ、オマエ何する気だよ!」
「何って……聖杯戦争に参加する為の駒を召還すんの」

さらりと言ってみせた少女は良いから、と言葉を綴った。


「此処にある四枚のカードはとある英霊達です。そこで、此処にいる皆様にわたくしの駒となる英霊を選んでいただこうと思います」


一体、何を馬鹿げたことを言っているのだろうか、この少女は。

その場にいた者は皆そう思ったに違いない。聖杯戦争のために現れる英霊は七体。それも皆、召還されている。これ以上サーヴァントを増やすことなど、不可能だ、そう思ったに違いないだろう。
だからこそ少女は笑っていたのだ。


「まず一番目。…まあ、簡単に言えば国を支配した女王様と言ったところです。二番目は唯一無言の女として最高峰の騎士と謳われた者。三番目は冷血非道、魔女と民に恐れられ語られないような死に様だった魔女。四番目は……世界を知り尽くした絶世の美女?よく分かんないですけど、そんな感じの人達です。さて、此処で皆様に聞いていきましょう。

まずは、ディルムッド・オディナ様はどのカードを選びますか?」

先程とは打って変わり、少女は微笑しながら、ランサーに問いかけた。ランサー、真名ディルムッド・オディナは一瞬驚いたように少女を見る。自分の真名を知っているとなるとこの少女、かなり前から此処に居たことになる。なのに、それらしき気配を先程まで一切感じさせないとは――一体何者なのか。
ランサーはそれから少し口籠り、答えを出した。

「戯言に付き合ってる暇等ないが…、そうだな。女騎士というのには、聞き覚えがある」

それを聞くと少女は二枚目のカードに手を翳す。翳されたカードは他の三枚よりも一段上に上がった。

「けーねす先生は…まあ、こういう事嫌いだよね。んー、イスカンダル様は?」
「絶世の美女とやらに興味があるのぅ」

少女が始めた事に興味があるのか、顎に手を沿え少女を凝視する。少女はふむ、と呟き四番目のカードに手を翳すと先程と同様、一段上にあがった。

「騎士王様は?」
「…女騎士とやらに、興味があります」
「ふむふむ、では――、王様は?」
「下らぬ。どうせなら華のある奴にせぬか」
「四番目のカードですね」

元よりサーヴァント以外に聞く気は無かったのか、
四人の意見を聞き終えると少女は困った顔をした。

同等に並んだカードが二枚。

「まあ…イレギュラーですし、いっか」

そう呟くとまた手を翳す。
すると翳したカードから燃えていく。しかし、二枚のカードからは何かが現れた。

「さて、始めますか」

右手には石を引っ掛けたネックレスと思われるものが。左手には輝かしい、布が。少女はそれをゴミでも捨てるかのように、自身の目の前に投げた。



 「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 「――――告げる。汝の身は我が元、我が命運は汝の意志に。聖杯の寄るべに反し、我のこの意、この理に従うならば応えよ」

 「誓いを此処に。我は常世総ての善を統べる者、 我は常世総ての悪を統べる者」

 「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」


信じ難い光景だった。

少女はまるで知っていたかのように、それが当然だとでもいうかのように、何の狂いも無く、全ての呪文を言い切った。何処となく、違った言葉はあったが、それでも、驚きだ。更には、何も描かれていない筈のコンクリートから光が発せられ、一つの円になり、やがて魔方陣が描かれた。

それはこの場にいるもの皆が知っている魔方陣。

そして、少女がその呪文を言い終わったと同時に発せられるのは皆が知っている輝き。



「―――問いましょう」
「―――問おう」



聞こえるのは二つの声。
片方は丁寧な、優しい物言いなのに対し、もう片方はどこが棘を含んだ言い方であった。



「貴女がワタクシを招き必要とせん者でしょうか」
「貴様が余のような騎士を招いた愚か者だろうか」


少女はただ、こう言った。


「あ、片方失敗した」


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