夢見た乙女でお酒を飲ませてみた
かなしい曖昧
ふわふわとしていく感覚に熱くなる頬、体。額に掌を当てれば確かに熱い。
「飲みすぎなんじゃねーの」
とはいうものの実質空けた本数は三本だけ。しかもアルコール濃度は3%とかそこらへんのものだ。…まあそれプラスランサーがどこで嗜んできたのかはわからないがオリジナルカクテルなんてものを作ってくれてるのだが。それでもそこまで飲んでいる訳ではないはずなのに。
「…らん…」
既に視界は歪んでいる。眠たい、のだ。
「はいはい」
「らんさー…」
名前を呼んで空気を掴めばそのうち熱くて大きなごつごつした手に当たって、掴まれて。ふわふわとした感覚のまま抱きつけば容易に受け止められた。
「寝るか」
「…や」
「んじゃ水飲むか」
「……や」
しゃーねぇなあ、なんて声が聞こえて世界が反転する。もともと軽かった体が更に軽くなって、自分が何処にいるのか分からなくなって、誰がそこにいて誰に愛されていて誰に受け止められて、誰に、だれに、だれに、
「なまえ」
ゆっくりと、ふかふかな何処かに降ろされた。綺麗に映るのは赤と青。
「泣き上戸か」
「らん、」
そっと頭を撫でてくれる大きな手に安堵もしたし恐怖もした。そんな矛盾だらけな思考が自分が全部嫌になってランサーに抱きつく。
「…すき、すき、…だいすき…はなれないで…や…らん」
「ん」
そっと落とされた唇はただ触れるだけで熱くなって、何かを感じた。ぽっかりと空いた穴を埋めてくれてるようで、空虚な気持ちを増すばかり。やだと好きだと愛してると精一杯の言葉を吐き出し続けてランサーはそれらを全部受け止めてくれた。
「すき」「ああ」「だいすき」「ああ」「あいしてる」「ああ」「ころして」「やだね」
何をしても埋まらない穴は広がっていくばかりでランサーはわたしの頭を撫でながらその目を細めていた。もういっそ殺してくれと本気で願ってしまうほどに思考は簡単な楽な単純な方へと答えを導き出す。伸ばした先にあったのはいつでもあたしを守ってくれた大きな背中に大好きな後ろ髪。距離を埋めても埋めても埋まらない。彼を愛することなんてできなかった筈なのに、好きだ何て、口になどしては、いけなかったのに。ずるずるとあたし達は嘘で塗り固められた恋人ごっこをして死んで、それで満足なはずだったのに。
「すき」
零れだした言葉は止まない。一度口に出してしまったこの感情を、あたしは止められない。
「寝ような」
悲しそうに困ったように笑う顔が最後に見えて、おやすみってあたしの視界が真っ暗になるけれども確かに彼はそこに存在していた。ゆっくりと沈んでいく意識の海の中、最後に「あいしてる」と聞こえたような気がして、あたしはあたしの記憶を封じ込めた。
(どうせ朝になれば全部忘れてるくせに)
「よく言うぜ」
酔いに弱れ君を愛していたい