「ユリアナ王女!」
「煩わしぞ。何があった」

本来ギルガメッシュが腰かける玉座に座りやって来た兵士に眉を寄せる。兵士は膝をつき頭を垂れ、息を荒げたまま言葉を綴った。

「それが…ギルガメッシュ王が城下の門にて下々の噂にあった強者とされる男と闘っておりました…」
「ほう」
「相手も中々やるようでして、このままでは町が破壊されてしまいます…!」

ふん、と彼女は鼻を鳴らす。そんなものこの王宮にいても時たま轟音が轟いてくるのだから気付いていた。

「放っておけ」
「し、しかし…!」
「ギルガメッシュが負けることなど有り得ぬ。町が壊れたのなら直せば良いだけの話であろう?何を焦っておるのだ、理解に及ばんな」

下がれと彼女は命じる。
そうして気だるげに立ち上がり、付き人に二三声を掛け不満げになりながも宮室へと向かった。


――…ギルガメッシュの奴め、王務を中途半端にしおって――…。





獅子に顔を埋め瞳を閉じる。本来ならば寝床に獅子をあげると怒るのだが、知るものか。余が王務を熟してやったというのに。

「ギルガメッシュが構わない」
「ぐるる…」
「エルキドゥとかいう泥人形ばかりを構うのだ」

信じられるか?と問えば鼻をくっ付けられた。ああ、その通りだ。巫山戯ておる。
確かにアレは素晴らしい。何せギルガメッシュと対等に闘い合いましてや生きているのだ。それだけで称賛に値しよう。だが問題はその後のギルガメッシュ。王宮に泥人形を置くのは構わないが自らの王務が終われば直ぐに居なくなっている。その後臣下共に命を下すことを忘れ、出歩くのだ。故に余が命を下すことになる。
それに、ギルガメッシュが丸くなっているような気がする。否、こればかりは気ではなく確かなことだ。それが一番解せない。余が知っているギルガメッシュが消えてゆくのだ。この世に生を受けた時からずっと今まであり得なかった事が、起きている。ギルガメッシュの理解者の余が理解者でなくなって、唐突に現れた泥人形に奪われて、しまう。


「獅子を寝床に乗せるなと何度云えば判るのだ」


入り口に視線だけを向ければ今しがた考えていた己の片割れが。口を開こうとして、美しい姿の後ろに憎らしい姿が現れる。

「へえ。ここがギルガメッシュの部屋?」
「正確には我とあやつの部屋だ」
「ああ、妹さん、だったっけ」

「――…ギルガメッシュ!」

ここは、ここは。
侍女だって付き人だって臣下だって、入らせない部屋なのに。入らせない部屋、なのに。認めた存在しか入れない部屋なのに。

「何故其奴を入れる!」
「何故?我が朋友であるエルキドゥを入れて何の問題があるというのだ」
「所詮泥人形であろう―――!」


同じ紅い瞳が、敵意を持つ。


「――今、何と申した?」
「其奴は泥人形だと言うたのだ。神聖なる我が部屋に入るなど甚だ愚かしい」
「お前とて我の友を穢すこと等赦されぬぞ!!」

怒りに燃えた紅い瞳と冷えきった紅い瞳の視線が交わった。ゆるりとした動作で獅子を連れ天蓋付きの寝床から出る。

「好きにするが良いさ。余は出て行く」
「待て――ッ!」
「貴様の様な男、知らぬ」

横を通りすぎ依然変わらぬ歩調で歩く。さて、どうするか。
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