「殺せ」
理由は覚えていない。
ただ、殺したかったから殺した。
惨たらしい肉塊を見下し、片すよう命じて彼女は去った。その純白の正装に穢れを残さぬまま。
民が煩いと民を殺した。献上物が足りないと民を殺した。
そうして都合が悪ければ、気分が悪ければ人を殺し彼らは笑い合っていた。
「ギルガメッシュ、冥界の奴等が煩くて敵わん」
「そればかりはどうする事もできぬな。放っておけ」
広い天蓋付きの寝床でその二人は寝そべっていた。愛獣の獅子はそこらで伸び、睡眠を貪っている。彼女はそっと瞳を閉じ、眉を顰めた。直ぐにその紅い瞳を開けて体を起こす。
「腹が減った」
「まあ待てユリアナ。今宵は東の民からの献上物が届く」
「…ふむ。ならばやるべき事を済ますか」
「好きにしろ」
乗り気ではないギルガメッシュを見て、嗚呼、と彼女は納得をした。
「侍女共と戯れるのか」
「…まあな」
「ならば余は好きにする」
ひょい、とその身を寝床から立たせ彼女は獅子を呼ぶ。すると獅子は欠伸をひとつし、立ち上がって彼女の足元へと歩み寄った。
「余り遊び過ぎるでないぞギルガメッシュ。貴様の子を孕ませて良い女はまだおらぬ」
「身篭った女を殺しているのはお前ではないか」
「当然。余が認めた女以外に貴様の子など産ませられる訳がなかろう」
「ならばお前が我の子を産むか?」
「母上が泣くな」
二人は笑い合い、彼女は獅子を連れ部屋を後にする。部屋に残ったギルガメッシュは目を細めてユリアナの背を見送った。
「……ならば誰の子を孕むのだ?あやつは…」
他の神々や王に求婚されぬ訳ではない。けれども彼女は片っ端から全てを断る。どのような男が好みなのかとギルガメッシュは少しだけ思案して、止めた。どうせ判らないのだから。