バイトの合間に
「んー…」

時計を確認しながら唸る。時刻は16時。先ほどひとつ目のバイト終え、今はとりあえず食事を摂らねばならない。でなければ22時まで飲食不可能だ。朝はバタバタして結局ご飯食べれなかったし、けど一人かー、クーのやつ12時からバイトって言ってたから18時までだろうしなあ。

とりあえず手頃な赤と黄色が目印、ハンバーガー屋さんに行くことに。さて何を食べようか、とメニュー表とにらめっこする。


「オイ」


んー無難にチーズバーガー?けどなあ、クォーターも中々。ううん、いっそ一度も食べたことのないものに挑戦してみようか。

「聞いているのか」
「え?」

ふと顔を上げると金髪の男の人がわたしを見ていた。はい?と言えば一人か?と聞かれたので頷く。

「なら付き合え」

指差す方向は今まさにわたしが入ろうとしていたハンバーガー屋さん。まあ一人だから、と頷く。男は嬉しそうに笑って「お前と同じのを頼もう」とレジに行ってしまった。あわてて後を追い、綺麗な笑顔を浮かべた店員がご注文はお決まりですか?と決まり文句を言う。

「んー、えーっと。アイコンチキンバーガーセット2つ下さい」
「畏まりました。お飲み物は何になさいますか?」
「白ブドウ…っと、お兄さんは?」
「何があるのだ?」

そういうお兄さんにここですよ、と飲み物の欄を指差す。ぐっと距離を詰めなにやら思案したあと結局わたしと同じものを選んだ。

「アイコンチキンバーガーセット2つで1280円です」

笑顔でそういう店員さんの為に財布を取り出そうと鞄に手を伸ばすと先に千円札が二枚、出される。

「俺が金を出そう」
「え、ありがとうございます」
「気にするな」

ふっ、と笑って釣りはいらんとか言い出した。それはそれで店員さんが困ってたのでお釣りを受け取りお兄さんに手渡す。

「駄目ですよ、これって意外と困るんですから」
「む?…そうなのか、いつもは問題ないのだが…庶民は謙虚ということか、うむ。覚えておこう」

何やら凄い発言をしてはいるが、突っ込んだら敗けだと思ったから苦笑い浮かべる。お待たせいたしましたーという店員さんの声でレジを見れば一つのトレイにのせられた2人分の食事が用意されていた。それを持とうとすればお兄さんがそれを持ち「なに、女に持たせることはないさ」、と紳士的な発言をして空いている席を探した。






「へー、初めてなんですか?」
「うむ。何時もは専属のシェフが作っているからな」

話しを聞く限りお兄さんはかなりのお金持ちらしい。それはもう、庶民のわたしからしたら憧れる程に。

はて、では何故このようなファーストフード店に来たのかと問えば庶民が何を好んで食うか気になったとのこと。しかし何やら人が多く、一人で入るのは躊躇われたのだがそこにわたしが現れたということだ。

「わたしも一人で心細かったんで、お兄さんが声をかけてくれて嬉しかったです」

にこりと笑えばお兄さんは面食らったらように目を見開き「ふむ、」と言った。

「…俺の名前はプロトタイプ。プロトと呼ぶことを赦す」
「え、あ。わたしは海南です」
「海南か、覚えておこう」

時刻を確認する。
もうすぐ17時。そろそろバイトに向かわねばならない。

「ごめんなさい、わたしバイトが」
「ん?ああ、仕事か。そうだな海南も労働に勤しむが良いぞ」

遠回しにがんばれと言われたのだろうか?良く分からないが今日はありがとうございましたと頭を下げ、せめて片付けようとトレイを持ち席を立つ。

「海南」
「?」
「携帯を出せ」

トレイの上に乗ったごみを指定されたゴミ箱に捨て、ぽっけに入っていた携帯を差し出す。プロト、さんはカチカチと弄り、自分の携帯を取り出した。………金色である。


「ほれ、」
「え?」
「俺の番号とメールアドレスを入れておいた。有り難く思え」
「……」


呆然とプロトさんを見上げる。
逆立てた金髪に跳ねた前髪。綺麗な紅い瞳。なんとなくつい最近見たことが、ある、ような気がした。

「どうやら我が屋敷に興味があるようだったからな。暇をみて招待してやろう」
「…!良いんですか!?」
「ああ」

ふわりと笑うプロトさんは、とてもかっこよくて、わたしから見ても美人さんだった。


「楽しみにしているぞ」


ちゅ、と額に唇を落として何事もなかったように去っていく。何が起こったのか考える暇もなく、ただ周りの視線が突き刺さるように痛くて、顔が熱くなって。とにかく恥ずかしくて、熱を冷ますようにその場を走って逃げた。


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